パートタイム労働者の賃金を裁判官が決める?

hamachanさんのブログ(http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2006/06/post_bb3d.html)で、知った連合高木会長のご発言(http://www.mainichi-msn.co.jp/keizai/wadai/news/20060617dde041020034000c.html)に、最初、違和感を覚えました。気になって、つらつら考えてみると、案外、深慮遠謀があるのかもしれないという気がしてきました。

まず、最初に感じた違和感です。そもそも、労働組合というのは職場の労働条件を使用者と交渉して決めるのが本来のあり方です。抽象的に言えば、この交渉は、労働者の権利を生み出すプロセスです。賃金であれば、働いたときにいくら賃金をもらえるかということは団体交渉で決まります。ここで、権利が生まれるわけです。

原理的には、本来パートタイム労働者の賃金に問題があれば、「やはりまずはパートを組織化して、団体交渉で待遇改善を求めていくというのが労働運動としては正攻法」という保守親父@労務屋さんのご意見(http://d.hatena.ne.jp/roumuya/20060619)が、正しいのです。

わたしも、同じように考えたので、裁判に訴えてパートタイム労働者と正社員の格差を是正するという、高木会長の提案は、労働組合の本道を踏み外したものに思えたのです。

(なお、交渉を通じていったん獲得した権利を使用者が侵害したときには、裁判闘争も労働組合の行動として問題ないと思っています。)

しかし、考えてみれば連合会長がそんなことをご存じないわけはなく、まして、パートタイム労働者の組織化に熱心なゼンゼン出身の方であれば、当然、もっといろいろなことを考えているはずです。

ひとつは、パートタイム労働者の組織化が進まないことへの対応です。使用者の反対というのも、現実には大きな障害でしょうから、裁判を多発させ、使用者に負担を強いて(なにしろ民事訴訟なのですから、対応しないと訴えた労働者の主張が認められてしまいます。)、「こんなことが起こるぐらいなら、パートの組織化を容認し、組合と交渉して待遇を決めたほうがましだ

。」と思わせるという効果がるかも知れません。世間の注目を集め、パートタイム労働者に連合はパートタイム労働者の味方だとアピールするという効果もあるかもしれません。

もうひとつは、裁判を通じて判例が蓄積されていくことです。相当無茶なことが行われていれば、それ相応の判決が出る可能性は十分あります。また、それほどでない場合も、和解しない限り、判決は出るのですから、徐々に相場が形成されていくはずです。すると、組合が団体交渉で正社員の賃金を決めれば、それがパートタイム労働者の賃金に波及していくという経路が出来上がる可能性はあります。そうなれば、団体交渉の重みはまして行き、組合の存在感も高まるでしょう。プレゼンスの確保ということも組織にとっては大事です。

もうひとつは、地方でパートタイム労働者の組織化に取り組んでいる活動家への精神的支援です。正直に言って、どんな組織でも、ある仕事に(人と)金を投入するというのは、その仕事を重要視している証でして、その仕事に取り組んでいる人間にとっては金自体とは別に大きな励みになります。パートタイム労働者の組織化というなかなか困難な仕事に取り組んでいる第一線の活動家にとっては嬉しいことなのかもしれないという気がします。

地方連合、協議会の幹部へのハッパという面もあるかもしれません。

労働運動というのは、ある意味では力と力のぶつかり合いに勝つことによって地歩を固めていくものなのですから、こういった戦術もありえるなというのが、今の私の考えです。

hamachanさんの言われるように、「裁判の結果、差別是正のために正社員の労働条件を引き下げるという話」を使用者が持ち出すかもしれませんが、それはそれで、また考えればいいということではないかと思います。労働運動というのは、そう、理路整然と進むものではないのでしょう。

人気blogランキングでは「社会科学」の28位でした。今日も↓クリックをお願いします。

人気blogランキング