日本の賃金の歴史と展望 その1

連合総研『日本の賃金の歴史と展望』調査報告書」」で、hamachanが、「賃金の歴史をもとにした総論も大変読み応えがあります」と書かれています。

この報告書の総論の読みどころは、「第Ⅱ部 賃金分析の方法」、特に「第1章 私の賃金は高いのか、安いのか(賃金構造について)」と「第2章 賃金要求の作り方」でしょう。

報告書のはじめにでは次のように書かれています。

労働組合においても、賃金とはどうあるべきかについての議論が、長年行われてきていたが、最近では、非正規労働者や男女格差に関する研究は数多く行われているものの、賃金全体についての議論は、労働組合関係者の中でも少ないように見受けられる。その結果、賃金についての理解が浅くなっているようである。できることならば、自分達の賃金は将来どのようにすべきかという議論を活発にして、将来の生活に対する明るい展望を示すことを考えたい。そうすれば、経済のデフレ状態からの脱却も可能になるというものであろ

う。

この報告書は、新しく労働組合の役員になられた方々が、これから直面する賃金交渉に際して、少なくともこの程度の知識は必要であろうというものについて、できる限りの内容をまとめたものである。同時に、「自分の賃金は安いのではないか」あるいは「サービス残業をなぜ生まれのか」などの疑問を持っている一般の方々の疑問にも答えることができればと考えている。

「組合関係者」、つまり、労働組合の役員、そして組合員にとって最も役立つのが、この二つの章でしょう。賃金交渉の経験の豊富な方でないと書けないようなことがいろいろ書かれています。そして、何よりも労働組合活動(家)のスピリットが感じられます。

私にとって面白かった部分をいくつか紹介して見ます。

客観的には同じ能率で同じ仕事であるにもかかわらず賃金に差が生まれることがある。これは、賃金に反映する評価体系として、学歴や年齢、勤続、家族数などに応じて支払われる部分がある場合。もう一つは、上司による評価が賃金に反映され、上司が労働者の属性(性別、国籍、宗教・信条、社会的身分、性格、好き嫌いなど)によって、恣意的に評価し、賃金に反映する場合である。このような差別的賃金は労働基準法でも禁止されているが、苦情処理制度が確立され、労働組合が差別政策に反対の立場で積極的な取り組みを行わなければ縮小しない。(pp.70-71)

労働組合は様々な立法を求め、国による監督や指導を求めますが、法律ができた後にも、労働組合が果たすべき重要な役割があり、差別撤廃について労働組合も責任を負っていることを主張されている訳です。

この差別撤廃は労働組合にとって、アキレス腱にもなりかねないところがあるのですが、これについて、議論を次のように進められています。

問題は形式的な学歴、年齢、勤続、家族数などの属人的要素を合理的な要素として賃金に反映するのかということになる。この場合重要なことは、構成される労働者がこのような要素を賃金決定の規範として認めるかどうかである。社会通念として、学歴に大きな価値が置かれていた時代には、学歴による賃金差は賃金決定の規範として認知されていた。しかし、高学歴者が増加した今日においては、賃金決定の規範としては認められなくなってきている。このように、賃金決定の規範となるかどうかは、職場の労働者が認知するがどうかにかかっている。同じ仕事をしているにもかかわらず雇用形態が異なることによって生じる賃金格差が問題になっているが、第2 次大戦直後においても職員、工員、臨時工などの身分格差および身分格差を理由とした賃金をはじめとする処遇格差が問題とされ、多くの労働組合が差別撤廃の取り組みを行っている。同様の取り組みが今日も求められているが、職場の構成員の意識変化を促す取り組みがまず求められる。(p.71)

理論的には、いろいろ議論があるのですが、現実の職場を変えようと思えば、「賃金決定の規範となるかどうかは、職場の労働者が認知するがどうかにかかっている。」という実態を抑えたうえで、「職場の構成員の意識変化を促す取り組みがまず求められる。」という、地味な正攻法を主張されています。どんな理論を構築しようが、それが正しいかどうかは労働者が決めることであるというわけです。

その背景には、「同じ仕事をしているにもかかわらず雇用形態が異なることによって生じる賃金格差が問題になっているが、第2 次大戦直後においても職員、工員、臨時工などの身分格差および身分格差を理由とした賃金をはじめとする処遇格差が問題とされ、多くの労働組合が差別撤廃の取り組みを行っ」たという実績があり、よく言われるように労働組合が単なる正社員の既得権の擁護団体である(その側面は当然ありますが、)はないという信頼感があるのだと思います。このあたりは、差別撤廃の運動をされている皆さんにが戦略を練られるときに参考になると思います。

頭から既得権益の守り手などと決めつけずに、労働組合を味方につける、労働組合員と連帯する道を探ることが差別撤廃への道であるのでしょう。

そして、現在の組合役員や組合員は、よく自らの在り方、今後の戦略を考えてみる必要があるでしょう。

(続く)

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