同一労働同一賃金でも同一価値労働同一賃金でも格差がなくなるわけではない

同一労働同一賃金 」と「同一価値労働同一賃金」とは、似ているようで微妙に差があります。

同一労働同一賃金はある意味で分かりやすい話です。同じ仕事をしているなら、労働者がどんな人間であれ同じ賃金を支払うべきだということで、日本では男女差別との文脈で語られ、最近では、正規労働者、正社員と非正規労働者の格差の問題の解決策として主張されています。

本来、差別に対する武器であるのにあらゆる格差解消に効く万能薬扱いされているなというのが、私の率直な感想ですが。

これに対して、同一価値労働同一賃金は、同一労働同一賃金というのと微妙に違います。普通の日本人には少し分かりにくい。職務評価ということに関わるからです。

同一価値労働同一報酬条約(ILO100号条約)というのがあります。1951年(昭和26年)に第34回ILO総会で採択された条約です。正式には

Convention concerning Equal Remuneration for Men and Women Workers for Work of Equal Value

といいます。

ついでですが、この総会で日本のILO(再)加盟が承認されています。

「報酬」というのはまあ、賃金とほぼ同じと考えてもいいのではないかと思います。重要なのは同一労働ではなく同一価値労働という言葉が使われていることです。もう一つは、男女の賃金差別の文脈で使われていることです。正規、パートといった文脈での話ではありません。

同一の労働が同一の価値を持つのは、ある意味では当たり前ですが、しかし異なる労働でも同一価値と言うことはあり得ます。

では、異なる労働が同一の価値を持つことをどのように判断するのでしょうか?この条約の第3条がこれを考える手がかりを与えています。

第 三 条

1 行なうべき労働(JOB)を基礎とする職務の客観的な評価を促進する措置がこの条約の規定の実施に役だつ場合には、その措置を執るものとする。

2 この評価のために採用する方法は、報酬率の決定について責任を負う機関又は、報酬率が労働協約によって決定される場合には、その当事者が決定することができる。

3 行なうべき労働における前記の客観的な評価から生ずる差異に性別と関係なく対応する報酬率の差異は、同一価値の労働についての男女労働者に対する同一報酬の原則に反するものと認めてはならない。

ここで、一つの方法として考えられているのは客観的な職務評価です。様々なジョブをいくつかの共通の観点、たとえば肉体的な負担、難しさ、責任、必要な知識・技能、作業環境などから評価し、この仕事はこれだけの価値、あの仕事はこれだけの価値と決めていくのです。個々では絶対的な評価ではなくJOBの間の相対的な評価が行われることになります。様々な観点で評価した結果、異なる仕事でも同じ価値ということが起こりえます。

そして、あるJOBについているのがほとんど女性であり、そのJOBと同じ価値と評価される仕事に就いているのはほとんど男性だとします。このとき、女性のついているJOBの賃金が低ければ、それは、「女の仕事は賃金が安くていんだ」、「女性の仕事は賃金が安くて当たり前だ。」といった差別が行われていると考えられます。

このような形での賃金差別に対するある程度有効な武器にもなり得るのが、「同一価値労働同一賃金」の原則です。

「ある程度」と書いたのは、この武器にも弱いところがあるからです。JOB毎に賃金が決定されるという実態、されるべしという社会的な観念のない所では、この手法は通じにくいのです。

また、JOBが企業内で決定され、企業を超えたところで共通になっていないと、この武器の射程範囲は企業内にとどまります。あるJOBにつく者の責任範囲は、これぐらいだという大まかな相場観が社会で共有されていないと、社会全体での差別の是正にはつながらないかもしれません。

さらに、社会的な家族手当がないところでこの原則を貫徹すると、家族を扶養しなければならない労働者とそうでない労働者の生活格差を招いてしまいます。そこにはある程度の配慮が必要になり、この原則からのかい離が発生する可能性が高いでしょう。

しかし、このようなついでですが、一時点の差別のない賃金ではなく、職業生活を通じた差別のない同一賃金を考えるならば、よりよいJOBへの異動のチャンスも同じにしなければならないでしょう。

しかし、同一価値労働同一賃金でも格差はなくなりません。異なる価値の労働に対しては、異なる賃金が支払われるのですから、賃金の格差はなくならないのです。

同一価値労働同一賃金の原則が貫徹されている社会を考えます。この社会で価値の低いJOBが非正規労働者がつくものとされ、価値の高いJOBには正規労働者がつくことになれば、正規、非正規格差は、存在するのです。

(注)「同一価値労働同一賃金」という言葉の、日本での使われ方については、次のブログが参考になります。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2010/01/post-fb7d.html

http://d.hatena.ne.jp/roumuya/20100129

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2010/01/post-c686.html

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