長生きのリスクってなんだろう?

年金支給年齢の引き上げ」で書いたように、老齢年金は長生きのリスクに対する保険だという考え方があります。 もともとをさかのぼれば、近代の産業経済社会では、子供の時代、子供を育てている時代、老齢期に貧困に陥りやすいという傾向がみられました。その意味では長生きがある種のリスクであることは間違いありません。 しかし、これから年金の支給開始年齢をその時々の平均寿命にすべきだと言っていいか、疑問があります。 高齢期に備えるとき、つまり若いときに予想できなかった長生きというのは、二つに分解することができるでしょう。ひとつは若いときに考えていた平均寿命よりもいざ自分が高齢者になったときの実際の平均寿命が伸びてしまうこと(これは本来は望ましいことです。)、もう一つは実際の平均寿命よりも自分が長生きすることです。 後者に対応するだけなら、年金支給開始年齢をその時々の平均寿命にすればいいのですが、前者のリスクもあります。 「平均寿命と65歳平均余命」や「女性の平均寿命と65歳平均余命」で示したような平均寿命の延びを予測することは難しいと思います。専門家にとっても長期的な平均寿命の延びを予測することは難しいのですから。 そうすると、年金支給開始年齢をその時々の平均寿命とする訳にはいきません。 さらに、長生きには別のリスクもあります。若いときに想定していた老後の生活と実際の老後の生活に差が出てしまうことです。このずれは普通は長生きすればするほど大きくなるでしょう。物価が予想とは違った、金利の水準が予想とは違った、生活ぶりが違ってきて買いたいものが変わったなどがあります。タブレット、携帯電話など30年前には(多分)なかったものがいろいろあります。また、健康状態も予想とは異なる可能性があります。 家族の構成も予定とは異なってくる可能性があります。子どもが大きくなったら自立して、助けてくれるはずだったのに、いつまでたっても就職できなくて・・・・などということもあり得ます。 もう一つ、自分や家族についての予想が当たったとしても社会の普通の暮らしの水準が上がってしまうということもあり得ます。社会の生活水準が上がってしまったために30年前の普通の生活が、貧しい、底辺の生活になるということもあり得ます。心の持ち方かもしれませんが、高齢期になってからその時点での普通の生活を送れないというのもつらいかもしれません。 長生きにはこのような様々なリスクがあります。年金がそれをすべてカバーできるわけではありません。他の手段も組み合わせての話です。それでも、年金支給開始年齢をその時々の平均寿命とすれば、それで長生きのリスクに対応できるというのは、簡単に考えすぎだと思います。長寿社会では、老後の準備をかなり前から始めなければならず、遠い先にある老後の生活がどんなものになるかを、準備をする時点では予想するのが難しいというのが長生きのリスクの根本にあるのですから。 人気blogランキングでは「社会科学」の16位でした。今日も↓クリックをお願いします。 人気blogランキング