ハローワークの市場化テストとインセンティブスキーム その7

ハローワークの市場化テストとインセンティブスキーム」でこんなことを書きました。

実際に就職支援を行う民間事業者は、カウンセリングや実際の支援を行うことによって、徐々にではありますが、就職させやすい人、つまり余りコストを掛けなくても済みそうな人なのか、就職させにくい人、相当なコストを掛けないとならなそうな人なのかを知ることができます。(中略)

さて、国は定額で支払いをしています。民間事業者が紹介して就職まで進むと、30万円を受け取ることができます。ここが損益分岐点です。もし、就職支援にかかるコストが20万円と見込まれれば、この人に対しては紹介まで含めたサービスを行うべきです。しかし、もし、50万円掛かりそうだということになれば、サービスの程度を落とすべきです。例え就職に成功させたところで、必要と見込まれる経費は50万円、もらえるのは30万円です。20万円の損ですから。全然サービスを提供しないと、問題になる可能性がありますから、支援を行えば受け取ることができる10万円の範囲内で適当な水準のサービスを提供することになるでしょう。

この予想を裏付けるようなことが、国民年金で起こっている様です。社会保険庁が、民間に、国民年金未納者への督促を委託しました。その結果を朝日新聞が報じています。(2007年5月17日)

「1ヶ月分の保険料徴収にかかった費用は同じ地域の社会保険事務所のほぼ半分になる成果が出ている。

しかし、一方で民間ゆえの課題も浮き彫りになってきた。民間会社は遠隔地や長期滞納者には督促していない-----社保庁は経済合理性優先の問題点を指摘する。実際、民間は社会保険事務所が行うような手間のかかる戸別訪問はほとんどせず、電話や文書での督促が中心だ。

肝心の納付率(昨年9月末時点)は、民間委託した5府県のうち3地域で前年度をやや上回ったが、他の2地域は前年度より低迷。同じ5府県の社会保険事務所の納付率がいずれも0.2から2.2ポイント上がったのと対照的だった。

民間会社からは『1万円を集めるために5万円のコストをかけることが許されるのか』『コストをかけてもやらなければならない部分は公の役割では。なんでも民間ということではなく役割分担が必要』といった声が出ている。」

どのようなインセンティブスキームが作られているのかよく分かりませんが、成果主義であれ、投入比例であれ、民間会社としては最も儲かる方法をとるはずです。コストをかけて採算割れになるようなことをしないのは当たり前です。記事では「手間のかかる戸別訪問はほとんどせず」となっていますが、手間を惜しんでいるわけではないでしょう。かかるのはコストです。

コストを抑えるというのは入ってくる収入との相対関係です。戸別訪問に対する報酬を上げれば、当然、民間会社も戸別訪問をするでしょう。採算が合う範囲で。そのときコストがどうなるのかという問題です。当然、現在のような民間はコストが半分というわけには行きません。

民間会社の声として紹介されているのは、官民の役割を考えるときかなり重要な論点でしょう。

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