インセンティブスキームに対するご質問にお答えして

ハローワークの市場化テストとインセンティブスキーム その8」に、情報の非対称?2さんからこんな質問をいただきました。 民間事業者が市場化テストに参加した場合、「国のセーフティネットの一部を担う。」という大義があるわけですよね。民間事業者にも公器としての理念があるはずです。ビジネスチャンスの拡大を狙って入札するのでしょうし、利益追求それ自体は健全なことですが、公の機関として国の業務を一部担うといった場合でも、コスト意識が最優先され、利益につながらない弱者が切捨てられるものでしょうか? こういう疑問を持たれるのもごもっともだと思います。実は、私には、市場化テストに参加する民間会社に「国のセーフティーネットの一部を担うという大義」や「公器としての理念」があるかどうかは、よく分かりません。人生いろいろではありませんが、現実の会社というのはいろいろありますから会社によって会ったりなかったりするのではないかと思います。 したがって、そのようなものを持つ会社と持たない会社があることを前提に制度設計を行う必要があります。 話がインセンティブスキームの範囲を越えて制度の全体をどう設計するかという問題に広がることになりますが、もし、そのようなことを民間会社に期待する、そうあって欲しい、それを前提としてインセンティブスキームを作りたいのであれば、入札資格の中に、「国のセーフティーネットの一部を担うという大義」や「公器としての理念」を持っていることという条件を付け加えるべきです。 そうでなければ、そういうものを持たない民間会社が委託事業を落札する可能性は十分にあります。そのような仕組みを作らずに、きっと民間会社は、「国のセーフティーネットの一部を担うという大義」や「公器としての理念」を持っているに違いないと思い込むのは危険です。 ただ、実際上の問題があります。そのような入札資格はあまりに抽象的過ぎます。このままだと入札資格の有無が恣意的に決定される恐れがあります。では、もっと具体的にするとして、どんな基準にするのでしょうか?「国のセーフティーネットの一部を担うという大義」や「公器としての理念」を持っているかというのは、本質的に抽象的なものなので、具体的な基準でそれを示すのは難しいように思います。そのような具体的な基準が作れないのであれば、入札条件にそれを入れることは困難であるような気がします。 また、会社の立派な理念があっても、現場の管理職や社員にそれが徹底しているかどうか?最近明らかになった、多くの不祥事は、会長や社長から言えば、まさかそんなことをやっているとは思わなかった、そんなことまでやれと言ったわけではないというケースのほうが多いのではないかと思います。民間会社の内情を外からそこまで把握するのは到底無理です。 さらに、基本的な考え方に立ち戻れば、入札で決めるという仕組みそのものの中に、民間会社は利益を求めて行動するものであり、それが企業の活力の源だという考え方があるように思えます。であれば、民間の活力を生かすためには、「国のセーフティーネットの一部を担うという大義」や「公器としての理念」を持っていることという条件を付け加えたりせずに、企業は利益を基準に行動するという前提に立って、インセンティブスキームを考えるのが本筋です。 なお、国から委託を受けたからと行って民間会社は別に「公の機関」になるわけではありません。基本的には、私人として国と契約を結ぶだけです。株主が取締りを選んだり、会社独自の判断で人事や組織を決めることに変わりはありません。業務をどのように行うかも、基本的にその会社の自由です。ごく限られたものを除き、政府を通じて国民にとる統制が民間会社に及ぶことはありません。 また、「利益につながらない」求職者=「弱者」とは限りません。シングルマザーで、子供を養うためにとにかく仕事をして稼がなくてはならない、えり好みはしないという人は、低いコストで就職させられるでしょう。(シングルマザーの就業実態については「シングルマザー その3」をお読み下さい。)ただ、それでいいのかという問題はあります。高いコストを掛けてでもいい仕事の口を探すべきかもしれませんから。また、もちろん、「利益につながらない」求職者=「弱者」という場合もあります。シングルマザーで、子供が小さく、預かってくれる人もなく、本人も病気がちで、母親の介護もしなければならず、運転免許もない、特に技能もないというような場合です。 人気blogランキングでは「社会科学」の43位でした。今日も↓クリックをお願いします。 人気blogランキング