ハローワークの市場化テストとインセンティブスキーム その9

ハローワークの市場化テストとインセンティブスキーム その8」で、二つの工夫が必要であることを示しました。 一つは、本来なら、もっとも政府が支援すべき人、実際に就職困難な求職者に対してはサービスが提供されるようにするための工夫です。 もう一つは、低価格で落札し、就職が容易な限られた人にだけサービスを提供するという戦略を採る民間会社を排除することです。 まず第一番目の問題に対する解決策を考えてみます。簡単な解決策は、委託単価を上げることです。こうすれば就職困難な求職者にサービスを提供するのが採算に合うようになりますから、サービスは提供されます。前回の例で単価を6にすれば、求職者を除くすべての求職者にサービスが提供されます。しかし、これでは政府の費用が莫大になってしまいます。 政府は外見から分かる就職の難易度は知っています。せっかくの知識を利用しない手はありません。就職が容易なカテゴリーに対しては安い単価を、困難なカテゴリーに対しては高い単価を設定するという方策を取れます。 前回の例で、就職が容易なカテゴリーには単価を4のままとし、困難なカテゴリーには、単価を6とするとします。どうなるでしょうか?
求職者外見コスト利益サービス
A
B
C
D
E-1×
F
G
H
I
J-1×
新たに、就職困難なカテゴリーに属する求職者、HIにサービスが提供されるようになりました。 さて、結果を見ると、8人が就職し、民間会社の総コストは28、政府の支払額は4人×4+4人×6=40で、利益は12です。 しかし、容易なカテゴリーに属している求職者Eと困難なカテゴリーに属している求職者J、つまり各カテゴリーの中で相対的に就職困難な求職者に対してはサービスが提供されないという問題は依然として解消されません。もし、政府の支出を抑えるために、困難なカテゴリりーの単価を上げるのと引き替えに、容易なカテゴリー向けの単価を切り下げれば、容易なカテゴリーの中でサービス提供を受けられない人が増えてしまいます。 すべての求職者にサービスを提供するためには、各カテゴリーでもっとも就職が困難な求職者のコストを償うように単価を設定しなければなりません。しかし、前回にも書いたように政府はそのコストを知りません。民間会社は知っているのですが、民間会社が、政府に伝えてきたコストが適性であるかどうかをチェックすることはできません。情報の非対称性がありますから。 また、そもそもあるカテゴリーでもっとも高いコストに会わせて単価を設定するとすれば、総コストが膨大になるのは自明です。民間委託はそれ自体が目的なのではなく、政府の支出を減らすという目的のための手段なのですからこれは矛盾です。 さて、次ぎに、第二の問題を解決するための工夫を考えてみます。成果に応じた報酬という範囲で考えると、ある一定数の就職を目標とし、それに達しなかった場合には、罰金を科すというの方法がありえます。 さて、このような条件のもとで、どのような結果が生じるかを、前回の例を使いながら説明していきます。 8人を就職させるというのが条件であるとします。この例で言えば、コストの安い方から8人を選ぶと、その就職のための総コストは27です。これを8人で割って、約3.4が平均コストです。これより低い額で応札すると利益がマイナスですから、これが応札額の下限です。競争が激しくなければこれより高い単価になるでしょう。 さて、3.4で決まったときにはこのような結果になります。
求職者外見コスト利益サービス
A2.4
B1.4
C0.4
D-0.6
E-1.6
F0.4
G-0.6
H-1.6
I-2.6×
J-3.6×
求職者A、B、C、Fはコストが単価より低く利益がでますから、さまざまなサービスを提供されます。求職者D、E、G、Hはコストが単価を上回りますが、8人という制約を満たすためにサービスが提供されます。一方、求職者I,Jにはサービスが提供されません。 このような結果となるのは、やはり、民間会社が求職者情報を活用して最小のコストで就職8人を達成しようとするからです。 一つ、注意していただきたいことがあります。競争の結果、単価が安くなると8人を超える人に掛けなければならないコストとの差は極めて大きくなります。民間会社の中には、多少の損失なら評判をあげるためにサービスを提供して、就職させようと考える会社があるかもしれません。しかし、このような会社でも8人を超える人を就職させようとすると、費用が大きすぎるので、断念する可能性が高くなります。 人気blogランキングでは「社会科学」の41位でした。今日も↓クリックをお願いします。 人気blogランキング