続小野理論 その9

続小野理論 その8」の続きです。

Ⅵ 金融資産が存在する経済での完全雇用一般均衡

 金融資産が存在する経済で、もし、一般均衡つまりすべての市場で均衡が達成されるとしたら、そこでは実物量、賃金、一般物価水準がどのような値に決まるかを考えよう。第5章ではこのような均衡一般物価水準が存在しえないケースがあることを示す。テキストの内容を先取りすると、このような均衡一般物価水準が存在し、実現するのが完全雇用一般均衡であり、存在せずに均衡が実現するのが不況均衡(労働市場は不均衡である。)である。

1 実物市場の均衡 

 外生的に労働供給量が決まっているので、労働市場からスタートする。労働市場が均衡するためには、家計の決めた労働供給量に労働需要が一致しなければならない。このためには実質賃金率が均衡水準になければならない。ここで均衡実質賃金率の水準が決まる。

なお、テキストにはないが、均衡実質賃金率と労働供給量から、均衡実質賃金所得が決まる。

  次に、財市場での均衡を考える。財市場の供給は生産量である。生産の条件を示す生産関数と労働市場で決定された均衡労働投入量から実質生産量(完全雇用生産量)が決まる。財市場での需給が均衡するためには、需要である実質消費がこの生産量に一致していなければならない。このようにして、均衡実質生産量と均衡実質消費量が決まる。

均衡実質消費量は、究極的には労働供給量によって決定されており、このモデルでは労働供給量は一定と仮定されているので、均衡において実質消費量は一定である。つまり、均衡において実質消費量の変化率はゼロである。

 次に労働市場を均衡させる一般物価水準の上昇率を求める。これは労働市場の条件から決まる。労働市場が均衡していれば、貨幣賃金率は一定となる。また、均衡実質賃金率も労働市場で決まっている。労働市場を均衡させる均衡一般物価水準は、貨幣賃金率をこの均衡実質賃金率で割ることによって求められる。(この水準とのちに取り扱う貨幣市場の均衡条件から決まる一般物価水準の関係は未だ理解できていないが、一般均衡が成立するためには、両者は一致しなければならないはずである。)貨幣賃金率、均衡実質賃金率が一定であるので労働市場を均衡させる均衡一般物価水準も一定になる。つまり、均衡において一般物価の上昇率はゼロである。

 さて、これまでは市場の均衡を議論してきたが、その背景には家計の主体的均衡があった。具体的には「利子率の基本方程式」

名目収益率=消費の利子率(時間選好率+一般物価上昇率)=流動性プレミアム(実質残高の限界効用÷消費の限界効用)

が満たされているはずである。ここでの実質残高は家計が需要するものであるので実質残高需要である。

 今、均衡において一般物価上昇率はゼロであるので、消費の利子率=時間選好率である。さらに、時間選好率は、消費水準と消費水準の変化率の関数であるが、均衡において両者とも一定である。したがって、均衡状態において消費の利子率=時間選好率は一定である。すると、流動性プレミアムも一定となる。ここで、均衡において実質消費水準が一定であるので、流動性プレミアムの分母である消費の限界効用も均衡において一定である。したがって、流動性プレミアムの分子である実質残高の限界効用も均衡において一定である。このためには均衡においては実質残高需要も一定でなければならない。

 以上で、均衡における雇用量、実質賃金率、生産量、消費量、実質残高(実質貨幣)需要量が求められた。ここまでの議論では貨幣市場、収益資産市場の均衡は議論していないし、条件としても用いていない。

2 均衡一般物価水準

 最後に貨幣市場の均衡条件から、一般物価水準を求める。実質貨幣供給は外生的に与えられる名目貨幣供給量を一般物価水準で割ったものである。貨幣市場が均衡するためには、これが家計の実質残高需要と一致していなくてはならない。これは上で見たように利子率の基本方程式から導かれる。市場を均衡させるように均衡一般物価水準が決まる。なお、貨幣市場の調整速度は速く、常に均衡すると仮定されているので、均衡一般物価水準は速やかに変化する。

3 グラフによる均衡一般物価水準の説明 

 実質残高(貨幣)需要と市場利子率、消費水準=生産量との関係を見ておこう。名目収益率=消費の利子率(時間選好率+一般物価上昇率)=流動性プレミアム(実質残高の限界効用÷消費の限界効用)であるから、実質残高需要が増えれば、流動性の罠に陥っていない限り実質残高の限界効用は減少する。この時、基本方程式(均衡)が維持されるためには、名目収益率(=市場利子率)が減少するか、消費が増えて消費の限界効用が減少しなければならない。消費が増えるためには生産が増えなければならないが、このためには完全雇用の労働が増えなければならない。実質残高需要は、収益率の減少関数である。

 横軸に実質残高需要(供給)を取り、縦軸に名目収益率を取ると右下がりの曲線となる。一方、実質残高供給は名目収益率とは無関係であるので垂直の線となる。原点からの距離は、名目貨幣供給÷一般物価水準である。

 基本方程式が満たされるためには、均衡において名目収益率=時間選好率となっていなければならない。時間選好率は実質貨幣とは無関係であるので、水平線となる。原点からの距離は時間選好率である。

実質残高(貨幣)需要曲線と時間選好率線の交点を通る位置に実質貨幣供給線が来ることが均衡の条件である。

4 無差別曲線による一般均衡の説明

 横軸に実質貨幣量を縦軸に消費量をとり、消費、実質残高(貨幣)平面を作る。消費と実質貨幣は効用をもたらすので、この平面上に同じ効用をもたらす消費と実質残高の組み合わせ、無差別曲線を描くことができる。

 この無差別曲線の傾きは実質残高(貨幣)を減らしたときに、どれだけ消費財を増やせば、効用水準を保てるかを示すものである。これは消費財の実質残高に対する限界代替率であり、流動性プレミアム(実質残高の限界効用÷消費の限界効用)でもある。流動性が多くなるほど、流動性の限界効用は減っていくので、この傾きは右へ行くほど緩やかになる。

 基本方程式から、定常状態で家計が主体的均衡にあるためには流動性プレミアムは時間選好率に等しくなければならない。傾きが時間選好率である直線を描き、この線と無差別曲線が接する点が家計の主体的均衡の必要条件を満たした点である。これは無差別曲線1本につき、1つあるとしよう。また、これらの点は一つの曲線の上にあるとしよう。

 家計が主体的均衡にある必要条件はもう一つある。計画している労働供給が実現していることである。この場合、この労働供給に等しい労働需要があり(労働市場の需給均衡)、これを用いた生産が行われ、生産されたすべてが消費される(財市場の需給均衡)。この消費水準は消費、実質残高(貨幣)平面では水平線で表される。

 この水平線と先の曲線の交点が一般均衡を示す点である。

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