ハローワーク その7 前提条件

ハローワーク その6 クリームスキミング」で「これだけきめ細かい価格設定ができないのであれば、もっと数が減ることになります。これ自体大きな問題ですが、今回はクリームスキミングの問題に絞って考えますので、次回以降に考えます。」と書きましたので、今回は、この問題を扱います。

民間企業との契約でハローワークを運営する場合、求職者のグループに対応して報酬(価格)をうまく設定できることが、このシステムが有効なものになるかどうかの要です。これにはすべての経済学者が同意するはずです。では、どんな問題に直面することになるのでしょう?クリームスキミングの話は前回やりましたので取り上げません。

1 何に対して報酬を支払うのか?

労働市場を効率的なものにするためには、ハローワークが全国的なネットワークを組んで、求人、求職情報を相互に利用できるようにしておかなければなりません。

ある求職者が、ある求人に応募して採用されたとします。

その時、誰に報酬を支払うのでしょうか?

候補はいくつかあります。

就職した会社に営業活動を行い、求人を確保し、受け付けた民間企業

求職者の求職を受け付け、相談、職業に対するコンサルティングを行った民間企業

就職した会社にに紹介をした民間企業

さらに、ハローワークで公開されている求人にハローワークの紹介なしに自分で応募し、採用された場合はどうするのでしょうか?これに対する支払いをしないとすると、民間企業からは公開自体をやめさせてくれという要求が出るでしょう。

2 求職者をいくつのグループに分けるか?

 これ自体難問です。

3 グループに対応した価格をどうやって探すのか?

 一つの考え方は入札でしょう。しかし、グループの数が多いと入札そのものが困難です。

4 地域差をどうするのか?

 同じグループに分類される求職者でも、地域によって就職のしやすさは異なります。一時期の東海地方は、東北の北部よりはるかに就職しやすい状況でした。どうやって価格に差をつけるのでしょう?

5 時期の差をどうするか?

 景気の変動に伴って、就職の困難度は変化します。このような場合、速やかに価格を改定する必要がありますが、どうするのでしょうか?

6 就職先によって価格に差をつけるのでしょうか?

 就職先は、よくいえば多様、悪く言えば玉石混交です。賃金も含め労働条件がよく、長期間勤められるところもあれば、低賃金で条件が悪く長続きしないところもあります。差をつけないと、ともかく就職させてしまえばいいという行動を誘発します。極端な場合、グループ企業で短期間、低賃金で雇い、成功報酬を得るという行動もあり得ます。

差をつけなければならないのですが、どうするのでしょう?

7 財源をどう確保するか?

 契約した以上、成功報酬の支払いはしなければなりません。不幸にして就職件数が少なければ、資金不足にはなりませんが、就職件数が予定以上になれば、政府の支出は増加します。そのような財源は確保できるのでしょうか?社会保険制度で保険料をとっていて、支出の増加がすべて国庫の負担にはならない医療保険介護保険ですら、財源確保に苦しみ、適切な価格を設定いできないでいます。保険料収入がなく一般会計で賄わなければならない職業紹介では財源化悔いはさらに困難です。

 財源を確保できず、価格を低めに抑えれば必然的に適切な職業紹介ができなくなります。

これらがすべてうまくいくという前提を置いて議論するのは、無責任です。また、さらに無責任なのは、このような前提条件があるということを明らかにしないで政策を議論することです。

金融政策や財政政策なら、うまくいかなければやり直すことができます。しかし、ハローワークを民営化してしまえば、再び、国がハローワークを再建し、運営するのは極めて困難です。やり直しのできない政策を提案するのであれば、徹底的に詰めた議論をするべきです。

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