ハローワーク その3

今回は、「ハローワーク その2」で書いた「ハローワークは、就職する気のある限りどのような求職者でも受け入れ、雇う気がある限りどのような会社からのどのような求人でも受け付けるべきものです(インチキはいけませんが)。しかも無料です。」ということの経済学的意味を考えてみます。

ハローワーク」とか「職業紹介」という日常的な言葉に引きずられると、本質が分からなくなることがあります。

上の文の言葉を少し置き換えてみます。

証券取引所は、証券を売る気のある限りどのような売り手の注文でも受付け、買う気(とお金)のある限りどのような買い手の注文でも受け付けるべきものです(インチキはいけませんが)。ただし有料です。

証券取引所の場合、売り手、買い手と取引所の間に証券会社が介在しますが、本質は変わりません。

ハローワークは、雇用の取引所なのです。取引されるものの種類がやたらに多いという特徴がありますが、取引の場、売り手と買い手の出会うところであることに変わりはありません。

こういう取引所的な機能は、自由経済にとって不可欠です。廃止するなど論外です。

証券取引においては東京証券取引所が圧倒的な地位を築いています。(先物取引では大阪証券取引所が健闘しています。)これは、一か所に売り手と買い手の情報が集中しているほうが取引に便利だからです。ハローワークも同じで、全国のハローワークが一つのネットワークを作っているほうが効率的です。求職者の立場に立てば、1つのハローワークで登録すれば、多くの求人情報を見られますし、求人者からみれば1つのハローワークに求人を出せば、大勢の求職者が見てくれるのですから。これを支える要素は、証券取引と同じように、効率的なコンピュータシステムです。(もうひとつ、計画的な訓練と長い経験を持つ職員も必要です。これは取り扱う求人、求職情報が証券のように規格化されてないことにより、必要となるものです。)(2009年12月1日 少し、文章を整理しました。)

余談ですが、ハローワーク都道府県に移管するなど、東京証券取引所を廃止して、各都道府県に証券取引所を作るのと同じです。効率が悪化するのは目に見えています。

ハローワークの機能をさらに抽象的にとらえるなら、「労働市場における完全情報の達成により、失業、企業での空席をなくし、最も適切な労働者の配分をする」ことです。

少しいいかえると、求人情報、求職情報をただで入手できる、一種の自由財にするのがハローワークの機能です。もちろん、自分の情報を公開したくない企業、個人に公開を強制することはでないという制約はあります。

ハローワークは、いろいろな情報を抱え込んで秘密にするのではなく、公開していく組織です。これに対して、民間の職業紹介は、「私のところにしかない優良な求人、優秀な求職者」を売り物にする傾向があります。情報を公開してしまえば、情報を提供しても料金がとれません。どこでもただで入手できる情報に金を払う人はいませんから。

オープンを原則とするのがハローワーク、クローズでなければ生きていけないのが民間職業紹介です。

この二つは一見するとよく似ているので、同じようなものと考える方が多いのですが、実は全く違ったシステムです。経済学者にさえ誤解している人がいます。

この誤解が、「8,9割までは賛成、しかし・・・」でhamachanが

日本的雇用慣行に頼るのではなく、八代先生が上で述べるような「公平」な労働市場を構築するためには、(それこそデンマークのフレクシキュリティが積極的労働市場政策として職業紹介や職業訓練に膨大な額をかけているように)今まで以上に公的なメカニズムが必要になるはずなのに、そこのところで突然公共悪者論の懐メロに変調してしまうところが、本書の最大の問題点ではないかと思われるのです。

と書かざるをえなくなる根本的な原因ではないかという気がします。

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