社会人のための『新しいマクロ経済学』解説 その42

社会人のための『新しいマクロ経済学』解説 その41」に続き、今回は「3.2 消費パターンの平準化と資産価格」に入ります。

「消費者には、各期一定の消費を維持しようとする性向があると仮定する。」とされています。日常の経験に照らしても、妥当でしょうし、財の種類が1種類しかなく、この財か余暇かという選択を消費者がするのであれば、普通のモデルでしょう。

余談ですが、二つの注意をしておきたいと思います。一つは、医療など病気や怪我をしたときにだけ必要になる財があるということです。この場合、このような財を除いた消費の平準化を図ると考えるのが自然ではないかと思います。そのための一つの手段が医療、傷害保険でしょう。もう一つ、現実の人は年老いていきます。この場合、高年齢になったときの消費水準は低くて良いという可能性があります。

さて、所得が変動する中で、消費の平準化を実現するために資産市場が大きな役割を果たしています。一つは、所得が大きいときには消費を押さえて貯蓄をし(あるいは借金を返済し)、小さいときには貯蓄を取り崩して(あるいは、借金をして)消費をすることによって平準化ができるのですが、貯蓄したものが資産として蓄えられます。また、ある時点を取ると、所得以上に消費するために借金をする人と、消費する以上の所得があって貯蓄をする人がいます。この両者を資産市場が結びつけています。現実の社会では、両者の間に金融機関が入って来ます。

さて、貯蓄をする人(貸し手、金融資産の買い手)が多く借金をする人(借り手、金融資産の売り手)が少ないときは、金融資産の価格は上昇し、割引率(利子率)は下がります。逆は逆です。このような割引率の変化を通じて、将来の所得も変化していきます。

このように、各期の所得、資産価格、割引率、各期の消費は、消費者の消費パターン平準化行動を受けて変化していきます。

さて、テキストでは、この関係を小さなモデルを使って説明しています。ただし、生産を含まないモデルなので、資産の将来収益が存在しません。このため資産の価格はこのモデルの中には出てきません。

モデルは時間としては二期からなります。

経済主体は消費者のみで、効用関数は皆同じです。消費者は消費財で示された所得を第1期、第2期に得ます。第1期の所得が消費財4単位、第二期の所得が消費財8単位となる消費者が100人、第1期の所得が消費財8単位、第2期の所得が消費財4単位となる消費者が100人いるとします。生産は行われません。

消費財は保存不可能で、各期に消費することができるだけであるとします。このままでは各消費者は、各期の所得をその期に全部消費するという選択しかできません。そのような消費によって得られる効用が、最大効用です。

しかし、第2期に消費財1単位で償還する割引債の市場が存在するものとします。消費者はこれを利用して、各期の所得をそのまま消費するのではなく、第1期に割引債を購入し(貸し付け)、第2期に割引債から得られる償還元本を消費したり、逆に、第1期に割引債を販売し(借入れ)、第2期に割引債を償還することにより、消費水準を調整して、効用を最大化することができます。

このモデルで経済が均衡する条件は次の三つです。

予算制約の下で、各消費者の効用が二つの期を通じて最大化されていること(主体均衡)。

第1期と第2期に消費財の需給が一致していること(財市場の均衡)。

第1期に発行される割引債の需給が一致していること(証券市場の均衡)。

このような分析をするときには、消費の平準化により、効用が大きくなるような効用関数を特定化する必要があります。テキストでは(3.5)式です。これは形式的には世代重複モデルで使った効用関数(2.50)式と同じです。

この関数の下では、消費を平準化すると効用が増加することを証明しておきましょう。

ちょっと、式が書きづらいので、

U=lnc1+lnc2

とします。

まず、一次の微分からはじめます。

d(lnx)/dx=1/xであることを利用すると

dU/dc1=1/c1=(c1)-1

dU/dc2=1/c2=(c2)-1

です。c1>0、c2>0ですから

dU/dc1=1/c1=(c1)-1>0

dU/dc2=1/c2=(c2)-1>0

です。効用は各期の消費の増加関数です。つまり、第1期の消費が増えても、第2期の消費が増えても効用は増加します。

次に、二次の微分に進みます。dxn/dx=nxn-1ですから

d2U/dc12=-1×(c2)-2

d2U/dc22=-1×(c2)-2

これらはいずれも負です。つまり、効用関数は各期の消費が増えると増加しますが、その増え方は消費が増えるごとに小さくなっていきます。

第1期の消費が著しく大きく、第2期の消費が少ないときは、第1期の消費を減らしても効用はそれほど減らず、第2期の消費を増やせば効用は大幅に増加します。すると、第1期の消費を減らして、第2期の消費を増やすことができれば、効用は像亜kすることになります。つまりこの関数では消費を平準化することにより、効用が増加します。

第1期における割引債の消費財で計った価格をqとします。割引率を(1+r)とすると(3.6)式が成立します。

消費者の予算制約式を考えてみます。第1期の消費財で測った所得をy1、消費c1とします。すると、消費財で測った貯蓄はy1-c1です。これで消費者は割引債を購入します。割引債1単位の消費財で測った価格はqですから、この貯蓄で購入できる割引債は(y1-c1)÷q単位です。この購入により、第2期には消費財(y1-c1)÷q単位を手に入れることができます。また、第2期の所得をy2とします。第2期には

c2=(y1-c1)÷q+y2

の消費が可能です。これがテキストの(3.7)式の意味です。

 この予算制約式の下で効用関数を最大化するための1回の条件(必要条件)を、ラグランジュ乗数法を用いて求めます。

 f(c1、c2)=(lnc1+lnc2)-λ〔c2-(y1-c1)÷q-y2〕

とします。C1、c2について微分して0と置きます。

df/dc1=1/c1-λ/q=0  (1)

df/dc2=1/c2-λ=0    (2) 

 (2)から、λ=1/c2となり、これを(1)に代入すると、

1/c1-(1/c2)/q=0

1/c1=(1/c2)/q

q/c1=1/c2

q=1/(c2/c1)

これが、テキストの(3.8)式です。

q=c1/c2

とも表現できます。

これは割引債1単位の価格が、第1期の消費を第2期の消費で割った比率になっていることを示します。これが消費者の主体均衡の必要条件です。

この式の左辺は(3.6)式 q=1/(1+r)の左辺と同じですから、

主体均衡の条件を

1/(1+r)=c1/c2

とも表せます。つまり「割引率が第1期の消費を第2期の消費で割った比率になっていること」ともいえるのです。

 もし、第1期の消費が第2期の消費に比べて少なくて均衡していれば、割引率は大きくなります。つまり、第1期の消費を犠牲にしたときに増加する第2期の消費が大きくなっています。

財市場と債券市場の均衡については次回説明します。

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