社会人のための『新しいマクロ経済学』解説 その26
今回は、わき道にそれます。飛ばしていただいても結構です。
「社会人のための『新しいマクロ経済学』解説 その25」で、「今期の消費が、今期の所得、あるいは可処分所得によって決まるケインズ型の消費関数」と書いたのですが、少し誤解を生むかもしれないので、解説を付け加えたいと思います。
ケインズの消費関数は教科書的にはこのとおりなのですが、一般理論でケインズが消費についてこう書いたというわけではありません。
ケインズは、単位として賃金単位を用いて消費や所得を実質化しています。
その上で、実質で見た消費関数を
C=χ(y)
と書いています。そして、この関数関係χを消費性向と呼んでいます。通常、教科書的にはC/Yを平均消費性向、dC/dYを限界消費性向と呼びますが、少し言葉の使い方が違います。一般理論でのケインズの消費性向とはマクロの消費関数を意味します。
基本的には、ケインズは、人間の本性(human nature)から、次のような基本的心理法則(fundamental) psychological law)があると考えています。
1 人々は所得が増えれば消費を増やそうとする。
2 消費を増やすとき所得が増えたほどには消費を増やそうとしない。
おそらく、これはマクロの消費関数ではなく、ミクロの消費関数です。その基礎付けは、合理的個人の効用の最大化とは違った原理、人間の本性にあります。そして、心理的な法則だと考えられています。
これから教科書的なケインズ型消費関数が導かれるのですが、ケインズはさまざまな留保を行っています。
そして、マクロの消費額は
1 マクロの所得
2 客観的な事情
3 個人の主観的な必要や心理的な性向、習慣、所得の分配
に、依存するとしています。
そして、3は異常な事態、革命的な事態を除いては短期間では変動しないと考えています。
しかし、他の事情が影響しないと考えてるわけではなく、いろいろな指摘をしています。面白い指摘がいくつかありますので、紹介します。
1 客観的な事情のひとつとして、現在財と将来財の交換比率、これは近似
的には利子率と同視できるとしています、が挙げられています。そして、利子率の変化の効果は、短期的にはそれほど大きくないとしています。
2 利子及び価格の騰貴を享受するためにも人々は貯蓄するとしています。これは比較的小さな現在の消費より将来の大きな消費が望ましいからであると説明されています。
3 現在の所得水準と将来の所得水準の間の関係の期待の変化も、考えられています。ただし、これは個人間で平均化されてしまうためマクロの消費には、大きな影響を与えないだろうとされています。また、これはあまりにも不確実だとしています。
以上のように、ケインズは消費に利子率や将来の所得(の期待)が消費に影響を与えることを、原理的に排除していたわけではありません。
また、私にはとても興味深く思えるのですが、貯蓄の動機として、次のような指摘をしています。
4 消費の逓増を楽しむため。生活水準が向上していくほうが低下していくよりも普通の人の本能を満足させると説明しています。
テキストでは、総効用は消費経路全体に依存するとしています。その意味はある期の効用がその期の消費に依存する、それが割り引かれ、合計されて総効用を定めるという効用関数として特定されているのです。
これに対して、ケインズは、消費経路そのものが上向きか下向きかで総効用、あるいは各期の効用が変わるとしているのです。上り坂のときと下り坂の時では、ある期に同じ消費をしていてもでも満足度が違うのかもしれません。ケインズの考えていたことを効用関数で定式化すると、ある期の効用は
消費が大きいことだけではなく、それが以前の期の消費に比べて増えていることによっても増加するといったタイプを考えなければならないのかもしれません。
そして、もうひとつ重要なのは、個人の貯蓄の動機として、unforeseen contingenciesへの備えをあげていることです。つまり、完全予見の仮定を認めていないのだろうと思われます。
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