社会人のための『新しいマクロ経済学』解説 その43

社会人のための『新しいマクロ経済学』解説 その42」に続き、財市場と割引債市場の均衡条件について説明します。

まず、財市場から始めます。このモデルでは、財の種類は一つで、これを投入して生産を行うことはなく、消費するだけです。つまり、消費財の均衡を考えることになります。

消費財市場の均衡条件は次の通りです。

モデルが二期のものなので、各期について、消費財の需給が均衡していることが必要です。仮定から個人が消費財を得る量は外生的に決まっていますから、その和も外生的に決まっています。これが総供給です。

これも仮定から消費財は保存不可能で、各期に消費することができるだけです。次期への持ち越しのための需要は存在しません。したがって、総需要は各個人が消費する量の和です。

総需要=総供給

を第1期について示したのが(3.9)式、第2期について示したのが(3.10)式です。

なお、割引債の売買ができることによって、各期において各個人の所得=各個人の消費とならなければならないという制約はなくなっています。ここでは、消費財市場の均衡が達成されるように割引債の価格q1が決まります。

各個人が予算制約の下で、効用関数を最大化するための必要条件である(3.8)式を変形すると、次のようになります。

q1×C2i=C1i

これをすべてのiについて足し上げると、次の式が得られます。

q1×∑C2i=∑C1i

これに各期における消費財市場の均衡条件である(3.9)式と(3.10)式を代入すると、

q1×1200=1200

となり、

q1=1  (3.11)

が得られます。これで割引債の価格が決まりました。次に、(3.8)式にq1=1を代入して整理すると、

C2i=C1i

が得られます。第1期と第二期の消費が等しいという条件です。

こうして割引債の価格と各個人の第1期、第2期の消費財の比が決まりました。

これと(3.11)の組み合わせが、(3.7)式を満たしている場合に、各個人の消費の絶対量がどのように決まるかを確認しましょう。

この式とq1=1を、(3.7)式に代入します。

C2i=Y1i-C1i+Y2i

タイプ1の場合、Y1i=4,Y2i=8 ですから、

C2i=4-C1i+8

  =12-C1i

です。ここで、C2i=C1iを考慮すると、

C2i=C1i=6となり、消費がこの量になることにより予算制約を満たします。

タイプ2の場合、は、Y1i=8,Y2i=4

ですが、結果は同じです。

所得のパターンが異なるにもかかわらず、同じ効用関数を持つ個人は同じ消費パターンを選択できています。当然、効用水準は同じです。これは割引債が存在し、その取引を通じて消費を平準化できるからです。

試みに第1期の方が所得の多いタイプⅡの個人の人数が50人であるケースを考えてみましょう。効用関数など他の条件は同じです。

第1期の所得は、4×100+8×50=800です。

第2期の所得は、8×100+4×50=1,000です。

したがって第1期の総消費は800、第2期は1,000です。

(3.8)式はこのまま成立していますから、割引債の価格は0.8です。価格が下のケースより安くなっているのは、第1期に消費を減らして割引債を買い、第2期に消費を増やしたいタイプの個人、つまり、第2期の所得の少ないタイプⅡの個人が減ったからです。

この価格の下で各個人の第1期の消費と第2期の消費の比率は4対5になります。

タイプ1の個人について(3.7)式を考えてみます。

C2i=(Y1i-C1i)÷0.8+Y2i

タイプ1の場合、Y1i=4,Y2i=8 ですから、

C2i=(4-C1i)÷0.8+8

1.25C1i=(4-C1i)÷0.8+8

C1i=(4-C1i)+6.4

2×C1i=4+6.4

C1i=5.2

C2i=6.5

タイプ2の場合、Y1i=8,Y2i=4 ですから、

C2i=(8-C1i)÷0.8+4

1.25C1i=(8-C1i)÷0.8+4

C1i=(8-C1i)+3.2

C1i=5.6

C2i=7

念のため、各期の総消費を計算すると、

第1期は、

5.2×100+5.6×50=800

第2期は、

6.5×100+7×50=1,000

となります。

注意が必要なのは、タイプ2の個人の消費と効用が高まっていることです。これは、第1期に消費を減らして割引債を買い、第2期に消費を増やしたいタイプの個人、つまり、第2期の所得の少ないタイプⅡの個人が減ったため、タイプ1の個人が第1期に売ろうとする割引債の買い手が少なくなり、割引債の価格が低下したことの結果です。つまり、タイプ2の個人がより少な負担(第1期の消費)で第2期の消費を増やすことができるようになったからです。

ただし、重要なのはこのような差があってもタイプ1の個人とタイプ2の個人の消費パターンは、第1期4対第2期5で差がないことです。

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