社会人のための『新しいマクロ経済学』解説 その41

社会人のための『新しいマクロ経済学』解説 その39」で、(粗)割引率、1+rは、現在財の価格、p1と将来財の価格p2の比p1÷p2であることを説明し、でこれが消費者の裁定行動を通じて実現されることを示しました。

「3.1.5 相対価格と限界代替率」では、この相対価格が消費者行動から決まることが説明されています。

この小節を読む前に、「2.2.4 家計の異時点間の資源配分」、「2.2.5 オイラー方程式の解釈」を再読しておくことをお勧めします。特に、テキスト43ページの「ptを支払って得られる1単位の財は、u'(ct)分の限界的な効用を消費者にもたらす。」、43ページから44ページにかけての、(2.22)式は、「現在価格で表した資産の収益率が時間選好率に等しくなるようにt期とt+1期の消費を配分していることを示している。」ことを再確認しておかれるといいでしょう。

テキストの記号を少し変えて説明します。現在財の価格p1と将来財の価格p2が消費者に与えられているとき、消費者はこの制約の中で手元にある現在財を売ってその代金で将来財を買う、逆に手元にある将来財を得る権利を売ってその代金で現在財を買うことができます。この場合、予算制約は常に満たされています。

現在財1単位をp1で売り、その代金で買える将来財はp2÷p1単位です。

現在財の限界効用はu'(c1)、将来財の限界効用はu'(c2)です。

現在財1単位を売り、将来財p2÷p1単位を買ったときの効用の変化は、次の式で表されます。

-1×U'(c1)+(p2÷p1)×U'(c2)

消費者が効用を最大化しているとこれが0になります。つまり、

-U'(c1)+p2÷p1×U'(c2)=0

です。

第1項を移項して、

p2÷p1×U'(c2)=U'(c1)

となり、両辺をu'(c2)で割って

p2÷p1=U'(c1)÷U'(c2)

となります。

これが(3.4)式です。テキストでは第2章と第3章で記号が少し違っていますが、上の式は第2章にあわせたものです。

「2財間の限界効用の比率を限界代替率と定義すると、」消費者が効用を最大化したときに、「現在財と将来財の相対価格(p2÷p1)は両者の限界代替率(U'(c1)÷U'(c2))に等しい」のです。

したがって、消費者の効用関数Uと消費パターンc1、c2が分かると、限界代替率(U'(c1)÷U'(c2))が計算でき、

これが分かると現在財と将来財の相対価格(p2÷p1)が分かり、

現在財と将来財の相対価格(p2÷p1)が分かると(粗)割引率が分かります。

そして、この(粗)割引率と将来収益から資産価格が決まります。

中間を省略すると、「消費者の効用関数U、消費パターンc1、c2と将来収益から資産価格が決まる」ということです。前者は経済主体の特性とフローの実物面の変数であり、後者はストックの価格面の変数ですがこれが結びついているのです。

現在財と将来財の相対価格(p2÷p1)から決まる(粗)割引率は、消費者行動と資産価格を結びつけるリンクの役割を果たしているのです。

(2009年1月3日 追記)

ここで、具体的な応用関数を考えて見ましょう。次の式は39ページの(2.11)式で表される効用関数を二期のものにしたものです。

U=u(c1)+u(c2)÷(1+ρ)

この効用関数では、

U'(c1)=u’(c1)

U'(c2)=u’(c2)÷(1+ρ)

です。

したがって、粗割引率

1+r

=p2÷p1

=U'(c1)÷U'(c2)

=u’(c1)÷{u’(c2)÷(1+ρ)}

=(u’(c1)÷u’(c2))×(1+ρ)

となります。

このような効用関数の場合、時間選好率ρが高いほど粗割引率は高くなります。

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