海外のプロジェクトに資金を出そう。

今回の世界同時不況は、ただの不況ではありません。極めてシャープに生産(roduction)、所得(ncome)、雇用(mployment)が落ち込んでいます。日本の鉱工業生産についてはドクター矢野が「正直に言って、鉱工業生産指数がこのように急激に落ち込むのは近年では見たことがありません。12月26日に発表されたのはあくまでも速報値ですから、今後修正される可能性がありますので、その点は注意が必要ですが、修正されたとしても記録的な低下が起こったと言えそうです。」と述べてられます。基軸通貨国であるアメリカの金融危機が世界の金融機関に伝わり、まともなプロジェクト、単純な運転資金の求めに対しても投融資がストップし、世界全体でマネーの流れがストップしているという点で、これまでの不況とは違うのです。これがこのような急激な減少の真の原因でしょう。 であれば、なすべきは世界のマネーの流れの回復です。マネーの流れといっても、マネーが金融資産と交換され、この交換でマネーを受け取ったものが、そのマネーを再び金融資産と交換し、さらにこの交換でマネーを受け取ったものが、そのマネーを再び金融資産と交換するといった金融の世界閉じてしまっているマネーの流れではありません。マネーが商品(投資財でも消費財でもかまいません。)やサービス、あるいは労働サービスと交換され、そこで生産(roduction)、所得(ncome)、雇用(mployment)といったパイ(PIE)が生み出される、そのような世界のマネーの流れの回復が優先されるべきです。 この観点から言えば、「山崎元さんが元旦のエントリー」で基本的な方向は間違っていないと評価されている日本の経済政策は、これまでの不況対策の延長線上にある内需拡大政策です。日本が内需を拡大することは、世界で需要を作り出すことであり、間違いではありません。しかし、世界のマネーの流れを回復させるという発想はありません。日本の輸入の拡大は世界のマネーの流れの回復に役立つでしょうが、その効果不十分なものにとどまる可能性が高いでしょう。 そして世界のマネーの流れが回復しない限り、たとえ資源安と円高による「交易条件の改善」によって相当額の所得が流入(交易利得)して、景気を下支えしても日本の景気の本格的な回復、不況脱出は難しいでしょう。将来の資産となるような公的プロジェクト(時間選好率を上回るような収益率のあるもの)が、現時点で十分にあるようには思えません(この点山崎さんに賛成)。もしそうなら大規模な財政出動はその支出の対象をいかに注意深く選んでも、政府の(意味のある)資産の増加を伴わない負債の拡大をもたらし、その割には景気が回復しない恐れが強いように思われます。 凍てついた世界のマネーの流れを溶かすためには湯を流し込むことが必要です。その湯は日本のいう源泉からの投資、融資です。期待していた欧米の金融機関からの投融資が実行されなくなったために止まってしまったプロジェクトは、開発途上国に山のようにあるはずです。このうちバブリーではなく、生活水準の向上や生産の拡大につながる健全なものに投融資するべきです。このようなプロジェクトが動き出せば、世界の生産、所得、雇用が拡大し、消費や投資も増え、マネーの流れも回復していくでしょう。最初のマネーの流れを作り出すことが重要です。 必ずしも開発途上国のプロジェクトに限る必要はありません。例えば、カリフォルニア州で建設が予定されている高速鉄道に対する融資でもいいのです。中東の産油国のプロジェクトでもかまいません。カナダ、オーストラリア、ニュージーランドなど日本が経常赤字を出しがちな国への投資だとなおいいのです。 内需を拡大しても、円高が著しく進めばその効果は相当程度打ち消されます。「基軸通貨国によるゼロ金利強制」で書いたようにアメリカが低金利政策を取り続ける限り、金融緩和でドル高を防ぐことはできません。そして、現在のアメリカでは低金利政策は不可欠です。急激、かつ大幅な円高を防ぐためにも資本輸出は不可欠です。 「原油を買おう。」とか、「海外のプロジェクトに資金を出す」といった政策は、これまで不況対策として取られたことがありません。奇矯な政策提案だと思われるかもしれません。しかし、今回の不況の原因がマネーの流れが止まるという異常な形の不況であるので、発想の幅をこれまでより広げ、世界経済の調整を日本が行う覚悟で政策を実行する必要があるのです。 人気blogランキングでは「社会科学」の31位でした。今日も↓クリックをお願いします。 人気blogランキング