GDPか消費か?

斉藤誠先生の『成長信仰の桎梏 消費重視のマクロ経済学』第2章「GDPは政策目標なのであろうか」に、econ-economeさんが異論(http://d.hatena.ne.jp/econ-econome/20070112/p1)を述べられています。私もecon-economeさんのブログでこの本を知り(econ-economeさん、遅ればせながら、ありがとうございました。)、読んでいるところなので、少しコメントのようなものを。

斉藤先生は、経済厚生は消費によって決まるという大原則を建てていらっしゃる。そして、より具体的には、時間選好率で割り引いた消費流列の現在価値を高めることが経済政策の目的であると主張されるわけです。そして、GDPを高めるのが経済政策の目的であるという考え方を批判されています。

残念なことに、このGDPが消費と同じように何らかの率で割り引いたGDPの流列の現在価値なのか、今期のGDPなのかを明示されていないので、やや、分かりにくくなっています。(私が自分の能力不足を棚に上げているのかもしれません。)

斉藤先生の政策に対する基本的な考えは33ページの末尾に示されているので、再録します。

もし、設備投資の生産性の方が時間選好率よりも高ければ、現在の消費を犠牲にしてでも(原文では「現在の投資を犠牲にしてでも」となっていますが、明らかに消費です。)設備投資への比重を高めた方が、将来の消費が拡大して経済厚生は改善する。

 逆に、設備投資の生産性のほうが時間選好率よりも低ければ、現時点での設備投資から消費に配分をシフトさせたほうが経済厚生は改善する。

この中で、「現在の消費を犠牲にしてでも」という表現から「現在の消費を犠牲にする必要がない場合は当然のこと」という意味が含まれているように思われます。

こう解釈すると、望ましい政策はこうなります。

1 総需要と総供給が一致しているとき

(1) 設備投資の生産性が時間選好率よりも高いときには、今期の消費を抑制し、投資を促進する。需給一致は維持するものとします。これによって経済厚生を高めることができます。

 これによって、現在のGDPは不変ですが、より大きな資本蓄積が行われるので、将来の(潜在)GDPは高くなりますが、これ自体は政策目的ではないと考える訳です。

(2) 設備投資の生産性と時間選好率が等しいときには、今期の消費を抑制し、投資を促進しても、その逆でも、何もしなくても、需給一致を維持する限り、経済厚生は同じです。

(3) 設備投資の生産性が時間選好率よりも低いときには、今期の消費を促進し、投資を抑制する。需給一致は維持するものとします。これによって経済厚生を高めることができます。

 これによって、現在のGDPは不変ですが、より資本蓄積が小さくなり、将来の(潜在)GDPは低くなります。それでも経済厚生は高まります。

2 総需要が総供給に満たないとき

(1) 設備投資の生産性が時間選好率よりも高いときには、投資を促進する。これによって、今期の投資の波及効果として今期の消費も増えますし、より多くの資本が蓄積されるので将来の消費も増やせます。したがって、経済厚生は改善します。

 これによって、現在のGDPも、将来の(潜在)GDPも高くなりますが、これは政策目的とは考えないわけです。

(2) 設備投資の生産性と時間選好率が等しいときには、今期の消費を促進しても、投資を促進してもよく、経済厚生は改善されます。現在のGDPは増加します。

(3) 設備投資の生産性が時間選好率よりも低いときには、今期の投資を抑制し、今期の消費を促進します。全体としての総需要を増やすのが適当です。これによって経済厚生を高めることができます。

 これによって、現在のGDPは増加しますが、より資本蓄積が小さくなり、将来の(潜在)GDPは低くなります。それでも経済厚生は高まります。

 このとき、投資を増やすと、現在のGDPだけではなく、将来の(潜在)GDPも高くなりますが、経済厚生は低くなります。

実は、経済厚生は本当に消費だけできまるのか、時間選好率は安定しているのか、技術進歩の問題をどう考えるかといった問題が残ります。

特に総需要が不足している局面では、ここで述べたような都合の良い結果をもたらす政策が存在するのか、設備投資の生産性は供給サイドだけで決まるのかなどが、大きな問題になりそうです。

なお、斉藤先生は、政府がバブルを発生させるような政策を採らない限り、経済が長期的には均衡に向かう傾向を持つとお考えのようですから、econ-economeさんとは違って、需要不足に緊急の対応が必要だとは考えていらっしゃらない可能性があります。

これらは、econ-economeさんが取り上げていただけるのではないかと思います。

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