2006年1-3月国内総生産速報

2006年1-3月の国内総生産速報(http://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/qe061/jissuu.html)には面白い特徴があります。対前年同期比で、三期続いて純輸出が名目では減少、実質では増加と、対照的な動きを示していることです。1-3月期は名目では、38.1%の大幅な減少ですし、実質では、38.6%の大幅な増加です。

この奇妙な現象について考えるために、まず、「純輸出」の定義と、「名目」と「実質」の概念を整理しておきたいと思います。

「純輸出」とは、「輸出」から「輸入」を差し引いたものです。名目でも、実質でもこの定義は同じです。輸出の方が輸入より多ければ純輸出はプラスになりますし、逆に輸入が輸出より多ければ純輸入はマイナスになります。GDPの他の項目は原則として足し算で求められるのですが、純輸出はこのように引き算によって求められます。この引き算がいろいろややこしい問題を引き起こします。

このような引き算で求められる「純輸出」はどのような意味を持っているのでしょうか?足し算なら意味を掴むのは簡単です。ここにコーヒーとケーキがあれば、まあ、ケーキセットと考えればいいでしょう。では、ケーキからコーヒーを引いたら何になるのでしょうか?日本の輸出品には機械が多く、輸入品には原油が多いのですが、機械から原油を引くといったい何になるのでしょう?

この問題を「輸入」、「輸出」という取引に立ち戻って考えてみると、輸出すればその代金を外国から受け取ることになりますし、輸入すればその代金を外国に支払うことになります。代金の受け取りを収入、支払いを支出と考えることができます。すると「純輸出」とは外国から得た収入から外国への支払いを差し引いたものと見ることができます。「純輸出」がプラスであれば支出より収入の方が多いのですから、その差額を使って国内で物やサービスを買うこともできますし、貯蓄することもできます。

次に、「名目」と「実質」の違いです。同じ財やサービスでも、時がたつと値段、価格が変わることがよくあります。最近は物価が安定していますが、長い時間がたつと価格は変化するのが普通です。今、ある財の生産が100億円から200億円に増えたとします。これには色々なケースがありえます。この財の1単位、例えば1キロや1台当たりの価格が変わらずに生産量が二倍に増えることもあります。逆に値段が二倍になっただけで生産量には、まったく変化がないと言う場合もあります。極端な例では、価格が半分になって生産量が4倍になると言うこともありえます。

さて、生産量をそのときの価格で示したものが「名目」です。上の例でいえば100億円、200億円が「名目」です。価格の変動を除去したものが「実質」です。「実質」は量を表していると考えていいのです。「実質」の計算方法は単純で、「名目」を「価格の指数」で割ればいいのです。「価格の指数」は「新しい価格÷元の価格」で求めます。新しい価格が下の価格の2倍になっていれば指数は価格の指数は2です。「名目」が100億円から200億円に変化したとき、単位当たりの価格に変化がなければ、「新しい価格÷元の価格」=1ですから、200億円を1で割ります。答えは200億円です。実質で見ても、つまり量で見ても生産は二倍になっています。

わざわざ「実質」を求めるのは、量が大きな意味を持つことが多いからです。消費は、「名目」でみて増えても「実質」でみて増えなくては意味がありません。例えば、10キロ、5,000円の米が10キロ10,000円に値上がりしても、米10キロは、米10キロです。名目では二倍といっても実際に食べるときの価値には変わりはありません。意味のあるのは「実質です」。投資や住宅建設でもそうです。また、雇用に影響するのも「実質」生産量です。値上がりしても生産のために必要な労働量には変わりがなく、「実質」で見て生産量に変わりがなければ、雇用量は同じです。「実質」は、経済の実態を表す有益な情報です。

このため、GDP、GDE、その中身である消費、住宅投資、企業の設備投資、政府の消費、政府の投資、そして、輸出、輸入も実質で考えることができますし、実質で議論することが多いのです。最近は財政の関係で名目経済成長率にも関心がもたれますが、基本的には実質経済成長率に関心が集中します。

ところが、この便利で役に立つ「実質」は「純輸出」に限っては、ひどく使いにくく、理解しにくいものになってしまいます。なぜかと言うと「純輸出」には財・サービスとしての実態も、現実の価格も存在しないからです。

先ほどの例でいえば、ケーキは存在します。コーヒーも存在します。そしてケーキセットも存在しています。したがって、ケーキにもコーヒーにも、そして、ケーキセットにも価格はあります。喫茶店に行けばメニューに載っています。

しかし、ケーキからコーヒーを差し引いたものは実態としては現実の世界にありません。そんなものをメニューに載せている喫茶店はこの世にありません。あれば店主はよほど変わった人です。仮に、私が喫茶店に行って「コーヒー抜きのケーキ」と注文したら、かなり変に思われるでしょう。

もし、ケーキからコーヒーを引いたものの価格を無理に考えるならケーキの価格からコーヒーの価格を引いたものということになるでしょう。これは現実には存在しない商品の仮想の価格にすぎません。

さて、「純輸出」に話を戻します。

名目純輸出の額NEXの計算は簡単です。名目輸出額から名目輸入額を差し引いたものが名目純輸出額ですから、名目輸出額をX、名目輸入額をMとするとX-Mです。

先ほど述べたように実質純輸出REXは、実質輸出から実質輸入を差し引いたものです。

まず、実質輸出を求めます。これは名目輸出(X)と輸出物価指数(px)があれば計算できます。実質輸入も同じ様に名目輸入と(M)と輸入物価指数(pm)から求めることができます。

実質輸出=X÷px

実質輸入=M÷pm

です。

実質純輸出は実質輸出から実質輸入を差し引いたものですから

REX=(X÷px)-(M÷pm)です。

さて、無理を承知で純輸出の価格指数pexを考えて見ましょう。

実質輸出=名目輸出÷純輸出の価格指数

ですから、純輸出の価格指数=名目輸出÷実質輸出です。

pex=NEX÷REX

=(X-M)÷((X÷px)-(M÷pm))

ここまでが前置きです。

(続く)

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