もう少しがんばりましょう、日経新聞

少し古いのですが、日経新聞の8月15日の記事を取り上げます。

日経の記事の内容

見出しは「実質GNI伸び悩む」で、やや小さく「原油高で押し下げ」、「GDPに海外の投資収益を加算」とあります。

冒頭に「国内総生産GDP)に海外からの利子・配当収入を加えた国民総所得(GDI)が物価変動の影響を除いた実質ベースで伸び悩んでいる。」とあります。

また、中ほどで「実質GNIを計算する際、実質GDPに海外所得の純受取額を加えるだけではなく輸出入にかかる物価の影響も加味しているためだ。」とあります。

これに続けて「加味する金額を『交易利得・損失』といい、一定の輸出量で、どれだけの製品を輸入できるかという交易条件を金銭換算したもの。」と説明しています。

変な説明です。

正しくは

まず、実質GDPと実質GNIとの関係を示す正しい計算式を示します。項目はすべて実質なので「実質」という言葉は省略します。

国内総生産GDP)+交易利得(これが負の場合は交易損失です。)+海外からの所得の受け取り―海外への所得の支払い=国民総所得(GNI) (1)

「海外からの所得の受け取り」から「海外への所得の支払い」を差し引いたものは、「海外からの所得の純受け取り」ですから、こうも書けます。

国内総生産GDP)+交易利得(これが負の場合は交易損失です。)+海外からの所得の純受け取り=国民総所得(GNI)   (2)

ところで、少し細かいのですが、海外からの所得の受け取りは、「利子、配当」には限りません。まず、海外で日本の居住者が得た雇用者報酬が含まれます。また、「財産所得」としては、利子や配当と並んで直接投資している海外の企業の内部留保も含まれまし、土地の賃貸料や著作権特許権の使用料もあります。また、それ以外のさまざまな経常移転の受け取りもあります。海外への所得の支払いも、同じです。

これで、正しい定義、計算式の説明は終わりです。

なお、現時点では海外からの所得の受け取り、支払いの殆どは「利子・配当」です。

記事はどうして変なのか

冒頭の説明は、まず、交易利得・損失のことを完全に落としてしまっています。さらに、海外からの所得の受け取りの話だけ書いて、支払いのことを忘れています。おまけに、利子・配当以外のさまざまな取引のことを無視しています。

中ほどの説明は大分良くなっています。交易利得・損失のことに触れています。また、「海外所得」という言葉で利子・配当以外のものがあることを示していますし、「純」概念を使って支払いのあることも考慮しています。

ただ、「輸出入にかかる物価の影響も加味しているためだ。」、「加味する金額を」というときに使われている「加味」と言う言葉はいかにも曖昧です。正しく書くなら「交易利得(損失)を加え(減じ)ている。」でしょう。

さらに、「交易利得・損失」の説明の中の「一定の輸出量で、どれだけの製品を輸入できるかという交易条件を金銭換算したもの。」は間違いです。交易条件は比率なので、これを金銭換算するということはできません。また、交易条件が変わって、初めて交易利得・損失は発生します。正しくは「交易条件の変化による利得・損失」とすべきです。

ついでに言うと、冒頭の説明と中ほどの説明には食い違いがあります。書いていて読者を混乱させると思わなかったのでしょうか?

しかし、GDPとGNIの関係を捉えて、日本経済の現状を説明しようとした意気は買えます。他の新聞にはこういう記事はありませんでした。「交易条件悪化の効果 数値例」でも参考にされて、もう少し、がんばってください。

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