合成写真

産経新聞が掲載した月と空を飛ぶコウノトリの合成写真が話題というか問題になっています。

産経新聞自身が虚偽報道としてお詫びをと経過を説明する記事を出し、同業他社がそれを報道しています。毎日新聞は「合成写真で虚偽報道」と見出しを付けています。このような写真を載せることは、「虚偽報道」であるというコンセンサスが新聞界にあると見ていいでしょう。ひょっとすると本人が「虚偽報道」だと言っているのだから虚偽報道だと考えているのかもしれませんが。

では、どこが虚偽報道なのでしょうか?その基準は何なのか気になります。というのは、「「女性の服、キャスターの服のカジュアルダウン」について」に放送業界にいるシーラカンスさんからこんなコメントをいただいたのです。

「入社当時(平家注 おそらくは15年くらい前)、ニュースに効果音やBGMを使うのは禁じ手というか、御法度でした。今は逆にばんばんつけまくりです。ニュース後のキャスターのコメントも増える一方。」

新聞界は現在のところ合成写真を非としているようですが、テレビは昔とは違って今は、効果音やBGMを全く問題なしとしているようです。効果音やBGMと写真の合成はどう違うのでしょう。新聞とテレビ・ラジオはどう違うのでしょう。

少し考えてみたいと思います。実は未だ結論を得ていないので、とりとめのない話になってしまうかもしれません。あらかじめお断りしておきます。

まずサンケイの記事の実態です。毎日新聞の報道を再構成したものです。

1 カメラマンは、10月17日に飛ぶコウノトリの写真を撮った。

2 このカメラマンは、10月20日に月の写真も取った。

3 このカメラマンが二枚の写真を合成し、月を背景に飛ぶコウノトリの写真をつくった。

4 産経新聞は、この写真が合成だと言うことを知らずに、この写真に「月とランデブー」というキャプションをつけ、「月をバックに大空を舞うコウノトリ。早朝の一瞬のできごとだった。」という記事を10月25日に載せた。

コウノトリの写真」も「月の写真」も、そこにあるものをあるがままに取ったもので、これ自体には問題はありません。「コウノトリ」とか「満月」とかキャプションをつけて報道しても虚偽にも誤報にもなりません。

「月を背景に飛ぶコウノトリの写真」は実際にはないものを撮った写真と言うことになり、事実を伝えていません。

まず、存在しないものを作り出しています。ただし、元々はあったものを合成したのですから、珊瑚にわざと傷を付けて、「傷つけられた珊瑚」としたのとは違います。自分で月やコウノトリを作り出したわけではありません。

また、存在したものを削ってしまっています。存在したものというのは、飛ぶコウノトリの背景にあったもの、そして月の前にあったものです。月の前に何もなかったとすると月の一部が消されています。

「このような合成写真を使うことが、そもそもいけない。」これが新聞の基準なのでしょうか?それとも「このような写真を合成写真ではないように伝えたこと」が問題なのでしょうか?

もし、「月を背景に飛ぶコウノトリの写真」に「月を背景に飛ぶコウノトリ(合成写真)}とキャプションをつけ、記事で「将来、コウノトリが増え、野性に帰れば、このような光景が見られるかもしれない。」と書いてあればどうなのでしょう。

私の感覚から言うと、このような記事は虚報でも誤報でもないけれども、たまになら構わないですが、新聞がこんな記事ばかりでは困ります。報道は、「現にあるもの」を中心にすべきだと思うからです。

なお、「このような記事でもだめだ。こんな記事は新聞に載せるべき記事ではない。」という立場もあれると思います。

新聞を作っている皆さんはどのように考えていらしゃるのでしょう?

さて、テレビ・ラジオの効果音やBGMを当てはめるとどうなるでしょう。効果音やBGMはあるがままのものではなく、テレビ局・ラジオ局が作り出したものですから(すでにストックしてあるものを持ってくることもあるでしょうけれど)写真の合成よりも、作り出すという点では合成写真より程度が高いでしょう。

「効果音やBGMをニュースに使うことは御法度。」これが以前のテレビ・ラジオの基準だったようです。それが「効果音やBGMは本当はないものであることが視聴者に自明だから使っても問題ないい。」となりそれが、「効果を上げるため(あるいは視聴率を高めるのに)有効だからどんどん使え。」に変わっていったものでしょうか?

私は、「効果音やBGMは本当はないものであることが視聴者に自明」であったとしても問題があると思います。

一つには、効果音やBGMを本当はないものだと分かっていても、その効果から逃れること、たとえば何らかの感情を呼び起こされることからは逃れられないからです。

もう一つは、本来そこにあった音、あるいは静寂が消されてしまい、そこにどんな音があったのか、静寂があったのかを知ることができなくなるからです。

厳しすぎるでしょうか?

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