インフレターゲット政策が失敗するとすれば

インフレターゲット政策の理論と予想 その2」でアウトラインを示したインフレターゲット政策が失敗するとすれば、その原因として何が考えられるでしょうか?

企業や家計がインフレが起こると予想しない場合には、インフレターゲット政策は失敗します。

現在の日本では製造業の設備の稼働率は低く、労働市場も緩んでいます。需要が多少増えても価格は上がらない可能性があります。これまで1万円で売ってきた商品にまとまった注文があった場合にも、企業が元通りの値段で喜んで注文に応じるといったことを想像してもらうといいでしょう。こういった場合にも労働者の賃金は増える可能性はありますが、インフレは起こりません。企業が値上げしなければ注文に応じられない状況になって初めて、インフレは起こります。

こういう事情が分かっていれば、あるいはそう感じていれば企業も家計もインフレが起こるとは予想しないでしょう。一般的に言えば、不況の程度が深刻であり、デフレからの脱却の必要性が高いほど、インフレターゲット政策は利きにくいということになります。現在の日本経済はまさにこのような状況にあります。

アベノミクスの第2の矢、機動的な財政出動は、こういう事態を避けるために、これを避けるためにもあると考えられます。短期的な財政支出の増大により、財やサービスの市場、労働市場需給ギャップを減らしておけば、インフレ予想は成立しやすくなるからです。この意味では、第1の矢だけに頼らず、第2の矢を放つというのは適切な政策の組み合わせです。

春の賃金交渉への介入、大企業を対象とする介入も、同じ線で考えることができます。これは一種の日本型所得政策です。企業が賃金を増やすことによって、家計の所得を増やし、消費を増やす。これによって需給ギャップを小さくしておき、インフレターゲット政策が効く条件を作り出しているのです。この意味では、この所得政策を第四の矢と呼んでもいいでしょう。第3の矢は、後年度に国債償還、利払いの負担を伴いますが企業が賃金を上げる場合には、国民にはそういった負担がないというのもいいところです。付け加えると、第一の矢による円安株高は24年度と25年度の税収の増加につながりそうです。これによって、国民の負担の一部は軽減されるでしょう。

さらに言えば、この第四の矢を政府が放っても、大企業が言うことを聞くとは限りません。まず、第一の矢を放ち、円安、株高を現実化した政権であるからこそ、大企業を動かすことができるのです。企業経営者も、自分たちに有利なビジネス環境を作ってくれた内閣から、頼まれると断りにくいでしょう。せっかく国民の気分が好転しつつあるときに水を差すのは気が引けるでしょう。その意味では第一の矢と第四の矢は、お互いに補完的なのです。

これ以外にも失敗に終わる可能性は存在しています。

1 大きな地震、火山の噴火

2 夏の猛暑による電力不足

3 ガス、原油、鉱産物など輸入しなければならない天然資源の値上がり

4 北朝鮮による核兵器、通常兵器を用いた攻撃

5 中国との武力紛争

6 欧米諸国の経済、金融不安の再燃

7 中東での武力紛争

8 26年度から予定されている消費税率引き上げに伴う消費の減退

などが考えられます。

経済政策だけで、日本経済がうまくいくわけではないのです。

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