解雇の金銭解決

長谷川主査提出資料がダメな件(2)解雇規制の話など」で取り上げられている長谷川主査のペーパーの関連部分は次の通りです。 Ⅲ.予見可能性の高い紛争解決システムの構築 ○我が国の働き方にかかるルールは極めて不透明であり、それは、新たな雇用創出や対内直接投資の障害となっているだけでなく、雇用終了において諸外国では考えられないほどの格差社会を生じさせる原因となっている。これらの諸課題に対応するため、変容する雇用制度や労働市場も踏まえ、諸外国並みの紛争解決システムを構築する必要がある。 (1)紛争解決システムの分析・整理・公表について ○「労働審判」の解決事例、「あっせん」事例、訴訟における「和解」の分析・整理およびその結果を活用するためのツール整備については、日本の雇用ルールの透明性を高める観点から、被雇用者の雇用上の地位、勤続年数、賃金水準、企業水準・規模等の各要素と救済金額との関係を明らかにした上で、客観的かつ分かり易いものとする必要がある。 ○その際、国家戦略特区の「雇用指針」と併せて、外国での英語による情報発信など、効果的な広報を行う。これらについては、検討のスケジュールを明確に定めて具体化を図る。 (2)解決手段・救済措置の選択肢拡大 ○欧米諸国やアジアにおいても制度整備がなされている訴訟判決による金銭救済の仕組みは、あっせんや和解と異なり、公正かつ客観的なプロセスを経ることから、雇用ルールの透明化に大きく貢献するものである。また、労働者の立場から見ても、解決手段・救済措置の選択肢が広がり、解決基準が定まれば不公正な解雇の横行の歯止めともなりうる。逆に、ルールの透明性が不十分な我が国においては、新たな雇用創出の障害となるだけでなく、裁判に訴えられる労働者と訴えられない労働者が公平・公正に扱われているとは言い難い状況にある。 ○今後、諸外国の制度・運用状況についての検討を踏まえて、日本の実情に応じた金銭救済システムを創設に向けて、検討スケジュールを明示して具体化を図るべきである。 ○仲裁については、現在、将来において生ずる個別労働関係紛争を対象とするものは無効とされている。そのため、諸外国において通用していた労働契約が、我が国においては無効になってしまうという不便を強いられている。例えば、外国において既に仲裁条項を含む労働契約を締結していた、交渉力の高い外国人から仲裁合意を解禁し、当該条項を見直すことなく日本においても適用できるようにするなど、一定の労働者に限り認めることから始めることも一案である。 まず、邪推かもしれませんが、「働き方にかかるルール」というのは原案の段階では「解雇ルール」か「雇用終了ルール」だったのを、誰かが、何かの配慮で書き換えたのではないかと思います。たぶん「雇用ルール」も同じでしょう。どぎつくなるという配慮でしょうか?書いてあることはすべて雇用終了なり解雇に関することだけですし、「我が国の働き方にかかるルールは極めて不透明」は言い過ぎでしょう。「「労働審判」の解決事例、「あっせん」事例、訴訟における「和解」の分析・整理およびその結果を活用するためのツール整備については、日本の雇用ルールの透明性を高める観点から、被雇用者の雇用上の地位、勤続年数、賃金水準、企業水準・規模等の各要素と救済金額との関係を明らかにした上で、客観的かつ分かり易いものとする必要がある。」というのもなんだか、漠然としています。「訴訟判決による金銭救済の仕組みは、あっせんや和解と異なり、公正かつ客観的なプロセスを経ることから、雇用ルールの透明化に大きく貢献するものである。また、労働者の立場から見ても、解決手段・救済措置の選択肢が広がり、解決基準が定まれば不公正な解雇の横行の歯止めともなりうる。」も雇用ルール一般の話ではないでしょう。 この二つの単語を「解雇ルール」に置き換えると、次のような論理的な文章になります。主張が正しいかどうかは別です。 ○我が国の解雇ルールは極めて不透明であり、それは、新たな雇用創出や対内直接投資の障害となっているだけでなく、雇用終了において諸外国では考えられないほどの格差社会を生じさせる原因となっている。これらの諸課題に対応するため、変容する雇用制度や労働市場も踏まえ、諸外国並みの紛争解決システムを構築する必要がある。 (1)紛争解決システムの分析・整理・公表について ○「労働審判」の解決事例、「あっせん」事例、訴訟における「和解」の分析・整理およびその結果を活用するためのツール整備については、日本の解雇ルールの透明性を高める観点から、被雇用者の雇用上の地位、勤続年数、賃金水準、企業水準・規模等の各要素と救済金額との関係を明らかにした上で、客観的かつ分かり易いものとする必要がある。 (2)解決手段・救済措置の選択肢拡大 ○欧米諸国やアジアにおいても制度整備がなされている訴訟判決による金銭救済の仕組みは、あっせんや和解と異なり、公正かつ客観的なプロセスを経ることから、解雇ルールの透明化に大きく貢献するものである。また、労働者の立場から見ても、解決手段・救済措置の選択肢が広がり、解決基準が定まれば不公正な解雇の横行の歯止めともなりうる。逆に、ルールの透明性が不十分な我が国においては、新たな雇用創出の障害となるだけでなく、裁判に訴えられる労働者と訴えられない労働者が公平・公正に扱われているとは言い難い状況にある。 下手な(?)推敲のおかげで、意味がよくわからない文章になってしまったのじゃないでしょうか?まぁ、みんなが手を入れていくと、常によくなるわけではないのですが。 これに対する保守親父@労務屋さんのコメントがあります。とても興味をひかれます。 私はこの件(解雇の金銭解決)については、裁判所で解雇無効となった場合その解決は基本的に復職+バックペイ+慰謝料しかなく、しかし実務上は多くの場合は復職は困難であり、したがってさらに追加的な金員の支払いにより退職しているという実情を考えると、それを制度化することは実務上の強い要請だと思っていますし、実際問題それによって手切れ金すらない、または涙金程度で解雇されているといった実態が改善される効果もあろうかと思っています。 「制度化することは実務上の強い要請」である理由はなんだろうと考えてしまうわけです。実際に金銭を受け取って退職しているなら、それでいいとも思えるのです。もっとも、労働者が「こんな無茶な解雇をするような経営者の下ではもう働きたくない。」と考えているなら、そう思うのはもっともだと思うので、そういう仕組みは必要だと思います。しかし、企業側から申し立てられるとなると、どうかなと思うのです。自分が無茶をして、労働者が裁判を起こしたからといって、幹部が「会社を訴えるような奴とは、もう一緒には働けない。」と思ったとしても、それを国が認めて、復職を望んでいる労働者の雇用の終了を強制するというのは、どうも。 また、現在ではバックペイについては民法の危険負担に従って使用者が全額を支払うわけですが、バックペイも損害補償のようなものと考えて、労働者にも非がある場合にはそれに応じて過失相殺的に減額することも可能としたほうがいいのではないかと思っています。労働者にまったく非がない、復職による解決も十分可能な事件については裁判所が事実上利用不可能な懲罰的な金額を示せばいいわけですし、明らかに労働者に非があるものの手続き上の瑕疵などで解雇無効という場合には、バックペイも相応に減額して、比較的高額でない金額を示せばいいのではないかと思うわけです。ということで水準次第というところは大きく、また個別事件によって事情が様々かつ考慮すべき事項も多いので、なかなか「客観的で分かり易い」相場をつくるというのも簡単ではなかろうとも思っています。基本的には裁判所の総合的判断によるしかなく、時間をかけて解決例が積みあがってくればそれなりの相場のようなものが見えてくるかもしれない、というものではないかと。 実務感覚として、こういう考えを持たれるのはよくわかるのですが、筋の通った制度として作るなら、「手切れ金」の性格を明確にしなければ。基本的な選択としては損害賠償か、慰謝料かどちらかでしょう。違うでしょうか?他にもあるかもしれません。 ただ、どちらにせよ「バックペイ」まで削るというのはよくわかりません。無効な解雇に対する将来に向けての救済として復職だけではなく金銭の支払いという選択肢があってもいいかもしれませんが、解雇無効でバックペイをしなくてもいいというのは、筋が通らないのではないでしょうか?損害賠償や慰謝料なら「労働者に非がある場合」に減額するという理屈はあるのかもしれませんが。バックペイはバックペイ、手切れ金は手切れ金と整理したほうがすっきりしていると、私は感じます。 「労働者にまったく非がない、復職による解決も十分可能な事件については裁判所が事実上利用不可能な懲罰的な金額を示せばいい」というのは、判決が出た後で、企業に復職を受け入れるか金銭を支払うかの選択を認めるということだと思いますが、疑問が残ります。企業申し立ての場合にそういうことを認めると、労働者との関係がおかしくならないでしょうか?そもそも、復職させればいいのでは。また、労働者申し立ての場合も認めないといけなくなり、懲罰的な金額を労働者に支払うことになるかもしれません。 これは私は詳しくないので、間違っているかもしれませんが、手切れ金の性格を損害賠償とした場合、「懲罰的な」ものを認めていいのでしょうか?これまでの法体系と整合性が取れるでしょうか?広く懲罰的損害賠償を認めるということになると影響は大きいのでは? 「個別事件によって事情が様々かつ考慮すべき事項も多いので、なかなか「客観的で分かり易い」相場をつくるというのも簡単ではなかろう」というご意見には、全面的に賛成です。元のペーパーを書かれた方々は、個別事件の多様性を、よく理解されていないのではないかと思います。 人気blogランキングでは「社会科学」の12位でした。今日も↓クリックをお願いします。 人気blogランキング