構造改革か需要確保か

大和総研経済調査部の矢澤朋子さんが「日本の就業率は欧州より低い?-注目すべきは就業率の男女差-」という論文を書かれています。

そのポイントを紹介しながら、少しコメントをしようと思います。なお、この論文が公表されたのは2013年の3月であり、日本の経済状況も女性の就業率も現在のものとは異なっています。この論文で用いられたの女性の就業率のデータは2011年のものであり、60.1%でした。

ポイント1

日本の女性の就業率はEU諸国、27か国の平均より高く、順位でみると15位のフランスとほぼ同じである。生産年齢人口の就業率は平均的である。

ポイント2

しかし、就業率の男女差(20.1%ポイント)は大きく、EU諸国で日本より大きいのはギリシャ、イタリア、マルタだけであり、フランス、ドイツなどと比べると極めて高い。

ポイント3

どの国でも30から39歳で就業率の代位叙差が大きくなる傾向があるが、日本は30歳代前半で27.2%ポイント、後半で29.0%ポイントと極めて大きい。

ポイント4

時系列でみると男女差は縮小傾向にあるが、1983年からの縮小幅はフランス、ドイツの半分程度である。

ポイント5

1970年代に活発になった女性解放運動により、女性が働くことは当たり前になり、女性就業率が高まるのは、先進国共通の現象である。

ポイント6

ドイツの男女差縮小の理由の一つは、東西ドイツの統合で女性就業率の高かった東ドイツが統合されたことである。

ポイント7 ドイツの例

ドイツの合計特殊出生率は2011年で1.36という低水準であり、あえて「子どもを持たない」という選択をして就業を継続している女性が増加している。高学歴・未婚・フルタイム就業している女性が家庭と仕事の両立が困難であるために

子どもを持つことをあきらめて就業していることが、女性就業率の上昇の一因である。

ポイント8 フランスの例

フランスは1930年ごろから少子化、人口減少を克服するため家族政策をを進めており、1970年代からさらに積極的になっている。所得給付や現物給付が手厚く、労働時間の短縮、弾力化を進め、少子化対策に大きな効果を上げ、女性の就業率も上がり、就業率の男女差も小さくなっている。

ポイント9

日本の家族関連支出割合は最も小さい。フランスの例では家族関連支出割合と女性就業率には正の相関がある。

ポイント10

日本での女性就業率向上には、子供を持たないことによって就業を継続している要因も大きいと思われる。

☆これは「子育て世代 働く女性最多」で書いたこと一致しています。

ポイント11

家族関連支出割合をある程度まで上げた後は、現物給付の割合を上げたほうが女性の就業率を引き上げ効果が高いようである。

ポイント12 政策提言

少子化を防ぎつつ、出産子育て期の女性の就業率を上げるためには、家族関連支出の内容を現金給付に偏らせるのではなく、保育施設などに注力したほうが効果的であろう。

男女の分業という古い観念を変えていくことも重要である。

労働時間の短縮、柔軟な労働条件の整備も必要である。

データをよく調べられた、よくでまとまった論文であると思います。ドイツの過去からの変化については東ドイツ統合の影響を排除して書いていただきたかったですが、データの制約もあるので仕方がないと思います。

ただ、異論がないわけではありません。

ここで提案されているのは、基本的には供給サイドの政策です。しかし、需要のほうも重要ではないでしょうか?

2013年の女性の就業率は62.4%で、2011年より2.3%ポイント上がっています。提案されたような政策はそう効果を上げているようには見えないので、これはほぼ需要サイドの効果といえるでしょう。

ポイント1についてみると、EU諸国の2011年と比較すると、順位はぐっと上がりエストニアに次ぐ、9位になり、フランス(59.7%)にかなり水をあけています。また、ポイント2についてみると、男女差は18.4%ポイントに縮小しています。2年間で1.7%ポイント縮まっています。

さらに、需要の増加に基づいて就業率が高まることによって、労働条件の向上が進むはずです。労働時間の短縮、柔軟な労働条件の整備は、供給の増加によってではなく、需要の増加によって得られるものだと思います。人手が不足するから、女性に働いてもらうために働きやすい職場を作るのです。供給を増やすだけなら、労働条件は低下するはずです。構造改革的な政策よりも、景気の拡大のほうが優先されるべきだと思います。

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