「派遣労働者、請負労働者の使用者」について

派遣労働者、請負労働者の使用者」に、濱口先生から、またまた、丁寧なご回答をいただきました。「「平家さんへの再々答弁」」というエントリーです。以下引用はこの濱口先生のエントリーからです。

私はこう書きました。

派遣業も労務供給業も使用者業務の代理業であると捉えて、使用者業務の代理は認めるけれども、使用者責任の回避は認めないというのが基本的なアイディアです。

1 原則として派遣先、発注者が使用者責任を負う。

2 ただし、派遣元、労務供給業者(代理業者)が使用者責任を果たす限りにおいて派遣先、発注元は使用者責任を免除される。

この仕組みの下では、代理業者との契約で代理業者が担うこととされた使用者責任を代理業者が果たさなければ、派遣先、発注者が労働者に対して使用者の義務を果たした上で、代理業者に求償することになるでしょう。

これに対して、濱口先生は、こういうご意見です。

考えていることはおおむねよく似ているように思われますが、「使用者業務」とか「使用者責任」という言葉の使い方において、いささかの齟齬があるような気がします。

雇用契約は労務の提供と報酬の支払いの交換契約とされていますが、派遣というのは労務の提供を受ける使用者と報酬を支払う使用者が分裂しているわけです。

指揮命令をして労務の提供を受けているのは派遣先である以上、労務提供にかかわる使用者責任は全て一義的に派遣先にあると考えなければおかしいでしょう。現行法は、指揮命令は派遣先なのに、36協定は派遣元で結べとか、安全衛生は派遣先がやるのに、事故が起こったら補償は派遣元の責任といった風に、そこが歪んでいると思います。この部分については、派遣先職場にいない派遣元使用者に責任だけ押しつけること自体が無意味ではないかと思います、(ママ)

一方、報酬の支払いの使用者責任は一義的には派遣元にある(少なくとも契約上は)わけですが、労務を提供したにもかかわらず派遣元が払わない場合に、派遣先に補充的な責任を認める必要があるように思います。ここはまさに平家さんの言う「代理業者との契約で代理業者が担うこととされた使用者責任を代理業者が果たさなければ、派遣先、発注者が労働者に対して使用者の義務を果たした上で、代理業者に求償する」という形が適切なように思われます。ここは、適切に報酬を支払っている限り、使用者機能のアウトソーシング自体を問題にする必要はあまりないでしょう。

私は、雇用契約は指揮命令を受けての労務の提供と報酬の支払いの交換契約であると考えています。指揮命令がなければ、請負や委任になり、これらとの差が大きな問題です。

指揮命令する者が使用者であるということで、指揮命令する限り、使用者としての義務を負うべきというのが基本でしょう。多分、濱口先生も同じご意見なのでしょう。

派遣労働者、労働者供給業者の労働者は、指揮命令のほとんどを派遣先、供給先で受けています。(どの派遣先、どの供給先に行けという指示は派遣元、供給業者がしています。)一方、狭い意味、あるいは現在の法制での合法的な請負業者の労働者は、発注元からは指揮命令を受けていません。しかし、いわゆる偽装請負業者の労働者は、発注元からも指揮命令を受けています。そして、発注元がこのような指揮命令を行うのは違法なのですが、濱口先生が以前のエントリーでの主張されたとおり、発注元の労働者と偽装請負業者の労働者が、同じ時間に、同じ場所で、接点を持って働く以上、自然なものです。

一方、使用者の責任は、かなり複雑に配分されています。そしてこの複雑さの中で、誰が使用者としての責任を負うのかが、実体上、わかりにくくなっています。これは大問題です。あえて分かりにくくしている事業者もあるかもしれません。

こういう実態を踏まえて、新しい法制を考えて見ようというのが、私の考えです。派遣法制、労働者供給法制、存在していない請負法制を総合した法制です。使用者業務代理業法といった名前を考えています。労働者が両方から指揮命令を受ける偽装請負もこの法律の下で合法化します。

派遣業者、労務供給業者、偽装請負業者が行う指揮命令は、これらの使用者の代理人として行っていると法律上位置づけます。そうすると、自然に、派遣労働者、労働者供給業者の労働者の使用者は、派遣先、供給先であり、また、いわゆる偽装請負業者の労働者の使用者も発注元となります。

指揮命令のほかに、採用、配置、教育訓練、給与の支払いなどの業務もありますが、これも、そのような仕事を派遣業者、労務供給業者、偽装請負業者が代理人として行っていると位置づけます。

ここでは、派遣労働者が常用であるか、登録であるか、事前面接があるかどうか、派遣期間がどれくらいであるかといったことは誰が使用者であるかということには影響しません。まして、派遣先、供給先、発注元などの「使用者側の内面的意思」などは全く関係がありません。

一方、狭い意味、あるいは現在の法制での合法的な請負業者の労働者は、発注元からは指揮命令を受けない(注)のですから、彼らの使用者はこれまで通り請負業者です。

(注)まったく接点がないわけではないので、実務上は指揮したかどうかの判定が難しいケースは出てくると思います。

こうしておいて、代理人である派遣業者、労務供給業者、偽装請負業者が現実に使用者責任を果たす限りにおいて、派遣先、供給先、発注元は、使用者責任を果たしたものとします。

また、労働者には使用者にその義務を履行するよう要求する権利がありますが、この要求は、給与の支払いなど一部のものに限って、まず、代理人に対して行った後でなければ、使用者である派遣先、供給先、発注元に対して要求できないとします。この範囲は法律で決めるか使用者と代理人の契約に委ねるかはまだ、明確な考えがありません。もし、契約に委ねるなら代理業者が労働者を雇い入れるときに、その範囲を労働者に命じさせる必要があるでしょう。

もし、派遣先、供給先、発注元と派遣業者、労務供給業者、偽装請負業者の間の契約において派遣業者、労務供給業者、偽装請負業者が責任を果たすとしていた使用者責任(例えば給与の支払い)を派遣業者、労務供給業者、偽装請負業者が怠り、労働者の請求があっても、なお果たさなければ、使用者である派遣先、供給先、発注元は、使用者としてその責任を果たさなければなりません。

果たした上で、派遣業者、労務供給業者、偽装請負業者に求償すればいいわけです。代理人が夜逃げしてしまい、とれないという可能性はあります。

いずれにせよ、こうしておけば労働者は権利を保障されます。

また、使用者である派遣先、供給先、発注元は、派遣業者、労務供給業者、偽装請負業者が無責任な行動をとれば、火の粉をかぶり、場合によれば火だるまになります。火だるまというのは、例えば、労働者の給料分は確かに派遣業者、労務供給業者、偽装請負業者に支払ったのに、労働者から請求されて二重に支払うことを余儀なくされてしまうといったことを想定しています。ですから、自ずから、不良派遣業者、労務供給業者、偽装請負業者は淘汰されるでしょう。もっとも、浜の真砂はつきても不良業者が絶えないのが労働市場ですから、国による市場秩序維持のための規制、評判は悪いかもしれませんが、例えば代理業者の免許制は不可欠です。

さて、ここで悩ましいことが二つあります。

一つ目は濱口先生が、常用型でも登録型で「位相が大きく異なってくる問題は継続性の問題です。期間の定めのある派遣労働契約を更新して長期間継続就労している状態において、それを継続しなくしたときに、誰がその期待権に対して補償すべきなのか。」と提起された雇用保障の問題です。前のエントリーを書いたときは、これに思いが至っていませんでした。

派遣業者、労務供給業者、偽装請負業者が有期契約で労働者を雇用し、その有期契約を反復更新しながら、一つの派遣先、供給先、発注元で働かせていくということは十分あり得ます。また、更新を繰り返した後に派遣止め、供給止め、発注止めをするということはあり得ます。むしろ、派遣業者、労務供給業者、偽装請負業者を使う重要な利点は、予期できない業務の繁閑に応じて、労働者との余計なもめ事なしに雇用量を調整できることかもしれません。

なお、派遣先、供給先、発注元が特定の個人にこだわらず、入れ替えていいよということであれば、こういう問題は起こりません。派遣先、供給先、発注元が特定の労働者個人にこだわった場合には、起こりやすいでしょう。

この問題は、先生ご指摘のように「使用者責任論のコア」です。

代理という考え方に立てば、この責任は使用者である派遣先、供給先、発注元にあることになります。こう割り切ってしまうと「現行法を前提にした解釈論としては派遣元との雇用契約が期間の定めなきものと実質的に変わらなくなったとするのがもっとも妥当なように見えますが、しかし、実質的に使用し続けていたのは派遣先であるわけで、どうも気持ちが悪い。」とい問題は解消されます。解消されますが、同時に、使用者側から見た最大ではないかもしれないが、極めて大きな長所も失われてしまいます。

そこで、濱口先生のご提案のように、使用者である派遣先、供給先、発注元に「法定の金銭補償を義務」付け、その代わり労働者との余計なもめ事なしに雇用量を調整できるようにするという手もあるかもしれません。果たしてどうでしょうか。もし、これが認められるなら、直接雇用の労働者にも適用すればいいという意見が出てくるでしょう。代理人を通して雇用された場合だけ、このような仕組みを作る合理的な根拠があるでしょうか。まだ、意見がまとまりません。

もう一つ悩ましいのは、労働条件を決定すること、団体交渉と連動します、の代理ををどう考えるかということです。基本的には代理でかまわないと思うのですが、団交の代理がどうなのか。

派遣業者、労務供給業者、偽装請負業者が団体交渉に応じ、派遣先、供給先、発注元の意向を口実にしなければ、使用者である派遣先、供給先、発注元が団交に応じたとすればいいのではないかと思いますが、何か気持ちの悪さを感じます。どこかで悪用されそうな気がするのです。

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