最低賃金 2007年その1

民主党最低賃金法改正案(http://www.dpj.or.jp/news/files/houan.pdf)について、hamachanさんが次のように書かれています(http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2007/03/post_c3f9.html)。

「新聞紙上では最低賃金を一律1000円にすると報じられていて、さすがにマスコミからもちょっと行き過ぎでないかいという感じで論評されているようですが、もちろん金額自体は法案には出てきません。ただ、大変問題だと思うのは、現在の地域別最賃という枠組みを全国一律最賃に変えようとしているところです。

正確に言えば、原則は全国最賃にし、『一定の地域について、全国最低賃金を適用することが不適当であると認めるとき』にのみ地域最賃を定めることが出来るという仕組みにしようとしているのですが、これは大変不適切な提案だと思います。

法案の中に「最低賃金は、労働者及びその家族の生計費、類似の労働者の賃金及び通常の事業の賃金支払能力を考慮して定められなければならない」と規定してあるのですが、東京と沖縄の生計費のどっちを基準にして全国最賃を定めるのでしょうか。

現在、東京の最賃は719円、沖縄の最賃は610円ですが、生計費から考えたら、どっちが生活が楽か分かりません(というか、多分沖縄の方が楽でしょう。もっともその最賃にありつく機会が絶対的に少ないですが)。

地域格差の問題はそれとして重要な問題であるのは確かですが、それを最賃の水準の問題として議論しない方がいいと思います、それは筋が違う。何より、最賃をめぐる最大の問題である生活保護との均衡を考えたときに、生活保護水準自体地域によって差があるのですから、全国一律最賃というのはいかにもおかしいですね。」

非常に辛口の批評です。少し、反論を。

まず、小さなことから。「法案の中に「最低賃金は、労働者及びその家族の生計費、類似の労働者の賃金及び通常の事業の賃金支払能力を考慮して定められなければならない」と規定してある。」という部分です。民主党案にこういう規定は確かにありますが、これは全国最低賃金や地域最低賃金の決定の際の考慮すべき事項とはされていません。産業別最低賃金労働協約に基づく地域的最低賃金を決める際の考慮事項です。

全国最低賃金や地域最低賃金は、「労働者とその家族の生計費を基本として定められなければならない。」(改正後の第9条)とされています。類似の労働者の賃金や通常の事業の支払能力は基本にはなりません。

このように生計費を基本とする方向に変えれば、おそらく実際には、全国の最低に近い生計費を基本として定め、生計費が高いところは地域最低賃金を定めることになるのでしょう。どちらも生計費を基本とするのですから、体系としては一貫しており、hamachanさんがおっしゃるほどの矛盾とは考えられません。

現実にも南九州の県などで同額の地域最低賃金が決定されているので、あまり違和感はありません。制度というのは、生き物で法律の条文上、全国最低賃金の適用が不適当なときとなっていても、現状をある程度反映したものになる公算大だと思います。多くの都道府県で地域最低賃金が定められることになるでしょう。

hamachanさんがおっしゃる生活保護との関係は、理論上大きな問題になるでしょう。現在の労働者の生計費、類似の労働者の賃金及び通常の事業の賃金支払能力から労働者とその家族の生計費に基準を変えるのですから、家族を持っている労働者の生計費確保という役割が正面出でてきます。これは生活保護の思想とよく似てきます。民主党はさらに議論を詰めていくべきでしょう。

ただ、当面の問題としては「2006年福祉宇宙の旅 その6」で書いたように、現在の生活保護を受けているものの中に労働の可能性がある程度以上あるものは、そう多くないと思われますので、しばらくの間は猶予を認めてもいいでしょう。

むしろ、労働市場との関係、雇用との関係が問題でしょう。

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