2006年福祉宇宙の旅 その1

このエントリーのタイトルは、「生活保護と最低賃金 その2」に寄せられたhamachanさんのコメントに由来します。内容も繋がっています。

貧困を減らすための対策には、さまざまなものがありますが、社会福祉、社会扶助として金銭を給付するという範囲で、代表的な手法を三つ考えてみます。

1 低所得世帯に最低生活費と所得との差額を支給する。

これは最低限度の生活水準、具体的には消費、の保障という政策目的からは、理論的にはスッキリした制度です。また、最低限度の生活を送れないで人だけを対象にしますので、不必要な給付をしないで済むという利点もあります。貧困を減らすことだけを考えていればいいのであれば、文句のない仕組みです。

金額設定

 まず、いったいこの最低生活費の具体的な金額をどうやって決めればいいのか、これが大問題です。生存水準を下回っては駄目だというのはコンセンサスでしょう。しかし、それを超えるといったいどういう水準を考えればいいのか、考え方はさまざまです。抽象的な「健康で文化的な最低限度の生活」という器を、どのようなもので満たしていくかということです。

 

ra-toyoさんによると(http://inquiry.exblog.jp/3142176)意外なことに公的扶助論では政策として有効な「貧困をどう規定するのか」についてほとんど研究がなされていないそうです。何を貧困とするのかが決まらなければ、この制度は動かせません。

金額の決定、これは、実にさまざまなバランスへの配慮が必要で、現実にもそのような考慮が行われてき低るのだろうと思います。

一つの考慮要素は、一般の国民の生活水準でしょう。国民の生活水準が上がれば、正比例的ではないにせよ妥当な金額は変わってきます。逆に下がれば、下がることになるでしょう。マーケット バスケット方式を取る場合も一般国民のバスケットに何が入っているかが影響するはずです。

もう一つの要素は、働いているものとのバランスです。一つには働いているものは税なり社会保険料なりでこのような制度を支えています。支えている側の生活が支えられている側よりも苦しい、逆転しているとの本質的におかしいでしょう。また、そのような制度は、働いている国民から支持を得られません。また、私のエントリーに対するhamachanさんのご指摘で、目を開かれたのですが、そういう状態になると働いている人から相対的(価値)剥奪感を生じてしまいます(http://takamasa.at.webry.info/200608/article_1.html)。

すると当然、普通の労働者が受け取っている賃金を基準として、それよりも給付水準を低くするという原則(less eligibility の原則がこれなのかどうか良く分かりません。ついでに、多分これには締約があるのでしょうが、それも分かりません。)が、成り立ちそうです。

ところが、実際には、その「普通の労働者」をどう考えるかが問題です。肉体労働者をとるか、未熟練の労働者とするか、判断はさまざまです。働いているのに、きわめて生活水準の低い人、ワーキング プアもいますから、彼らを基準にすれば、救われるべきワーキング プアが救われないことになってしまいます。

わき道にそれますが、生活保護最低賃金を連動させようという主張に私が乗れないのは、この問題があるからでもあります。そのように主張される皆さんは、最低賃金の水準を生活保護の水準まで上げることを意図して、そうおっしゃるのですが、連動の原則を認めるにしても、逆に低賃金労働者の賃金を基準に生活保護の水準を定めると言うやり方もあります。これはかなり説得力を持っています。

現実的なのは、生活保護の水準をある程度下げ、最低賃金をやや引き上げる。これが第一段階です。財政の面では、生活保護水準を引き下げれば支出は抑制でき、最低賃金を上げても支出は増えないのですから、これを好都合とする人は大勢いるはずです。で、第二段階、それを実行すると雇用面で問題が起こり、やはり最低賃金は上げすぎだった、引き下げよう、バランス上、生活保護の水準も引き下げよう。こういうことになりかねません。

いずれにせよ、この金額は政治的プロセスで決まります。政治的発言力を誰が持っているかによって、制度は変わります。貧困層の発言力が大きいとは限りません。 

多様な必要

もう一つの問題は各世帯の状況に一つづつ差があり、その必要が違うことです。現在の生活保護でもさまざまな給付が行われています。一人一人の必要に応じて対応すべきことを必要即応の原則と呼ばれているようです。

行政コスト

このように複雑な仕組みを作ると、その仕組みを運営していくためには給付のため費用のほかに、かなりの間接的な行政コストと人手がかかります。これはかなり頭の痛い問題です。

メイク ワーク ペイ

さて、このようなシステムの問題点は、働いて収入を増やそうと言う意欲が湧きにくいことです。働いて収入を得なくても一定の収入を得ることはできますし、働いても保障されている一定の収入を越すまでは収入は増えません。一方、労働には肉体的、精神的な負荷がありますから、働いて収入が増えないのであれば働くだけ損です。

当然のことながら、行政当局は働いてもらおうとします。しかし、強制的に労働させる分けには行きませんから苦労が絶えないのだろうと思います。ある方から、地方公務員がいやがる仕事は、徴税、用地買収、生活保護だと聞いたことがあります。

ただし、この問題が発生するのは働く能力があって、働いていない人がいる世帯だけです。働ける人がいなければ、別にどうということもありません。また、働ける人がいても、不景気で仕事の口がない場合も、実際問題としては同じです。実は、働ける人がいる世帯といない世帯で仕組みを共通にするかどうかも、かなり大きな問題であるような気がしています。交換すべき何かを持っている世帯と持っていない世帯との区別の問題です。

(続く)

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