「国債償還費」へのご質問に対するお返事

国債償還費」に、cloudyさんから質問のコメントをいただきました。 調べられた範囲でお答えをします。 cloudyさんが、使われた資料(コメントの中にあります。)で普通国債純増額が-(一般歳出+利払費)-税等の収入にならないのはなぜか。 少なくとも二つの理由があります。 理由1 国債整理基金への繰入額と国債整理基金による普通国債の償還額に差がある。 こちらの資料「最近7年間の国債整理基金国債、借入金償還財源の繰入額等、償還額等、年度末残高、借換額の推移」(http://www.mof.go.jp/jouhou/kokusai/siryou/syoukan01.pdf)によると例えば平成15年度に、一般会計から国債償還のために繰り入れられた金額は7.3兆円ですが、普通国債の償還額は6.8兆円です。 やや荒く考えると、こうなります。 一般会計の歳入歳出 税等の収入+新規財源債=一般歳出+利払費+国債整理基金への繰入額・・・(1) 国債整理基金への一般会計からの繰入額=整理基金による普通国債の償還額+整理基金への繰り入れ超過額・・・(2) 普通国債の前年度末の残高+新規財源債-整理基金による普通国債の償還額=今年度末の普通国債の残高・・・(3) (2)を整理すると 国債整理基金への一般会計からの繰入額-繰り入れ超過額=整理基金による普通国債の償還額・・・(2’) となります。 これを(3)に代入すると 普通国債の前年度末の残高+新規財源債-(国債整理基金への一般会計からの繰入額-整理基金への繰り入れ超過額)=今年度末の普通国債の残高・・・(4) となります。 整理すると 普通国債の前年度末の残高+新規財源債-国債整理基金への一般会計からの繰入額+整理基金への繰り入れ超過額=今年度末の普通国債の残高・・・(5) (1)から 新規財源債-国債整理基金への繰入額=一般歳出+利払費-税等の収入・・・(1’)です。 これを(5)に代入すると、こうなります。 普通国債の前年度末の残高+一般歳出+利払費-税等の収入+整理基金への繰り入れ超過額=今年度末の普通国債の残高・・・(6) これを整理すると 普通国債の純増額=今年度末の普通国債の残高-普通国債の前年度末の残高             =一般歳出+利払費-税等の収入+整理基金への繰り入れ超過額・・・(7) となります。 前回は、議論を簡単にするために、暗黙の内に「整理基金への繰入額と整理基金による償還額には差がない」つまり「整理基金の繰り入れ超過額=0」という仮定を置いていました。現実のデータに当てはめていくと、だんだん複雑になってきます。 理由2 借換債には普通国債の借換のための発行するものに加えて、一般会計の他の債務が満期になったとき償還財源を得るために発行する普通国債がある。 これは予想外でした。てっきり普通国債の借換のために発行するのが借換債が借換債だと考えて、「借換債は普通国債残高に影響しない」と思い込んでいました。一般会計の他の債務(借入金や債券)を償還するための普通国債発行も借換債に含まれているので、その分だけ普通国債の残高が増えてしまいます。 これを考慮すると(7)をこう修正しなければなりません。 普通国債の純増額=今年度末の普通国債の残高-普通国債の前年度末の残高             =一般歳出+利払費-税等の収入+整理基金への繰り入れ超過額+一般会計の他の債務を普通国債で借り換えた額・・・(8) この関係を財務省のデータから復元してみました。16年度末と17年度末の残高の変動分に限りました。 黒字は財務省のデータに載っていたもの、赤字はそれを元に私が推定したものです。
普通国債の増減(億円)
国債の種類16年度末残高新規発行償還17年度末残高
合計5,051,313426,63394,0985,383,849
新規財源債4,791,030343,90019,6125,115,318
建設国債2,452,80361,800-12,4972,527,100
特例国債2,338,227282,10032,1092,620,327
借換債260,28382,73374,486268,530
・減税特例52,94349,621
国鉄承継172,961183,904
・林野承継27,62527,625
交付税承継6,7547,529
資料はこれです。 1 17年度中の普通国債の償還額 「最近7年間の国債整理基金国債、借入金償還財源の繰入額等、償還額等、年度末残高、借換額の推移」(http://www.mof.go.jp/jouhou/kokusai/siryou/syoukan01.pdf) 2 普通国債の年度末残高 「平成17年度(見込み)の国債・借入金残高の種類別内訳」(http://www.mof.go.jp/jouhou/kokusai/siryou/zandaka01.pdf) 3 17年度の建設国債特例国債の発行額 「国債発行予定額の推移」(http://www.mof.go.jp/jouhou/kokusai/siryou/hakou02.pdf) 推定方法は次の通りです。 1 建設国債特例国債については、16年度末残高、17年中の発行高、17年度末の残高が資料から分かっていますから、そこから、17年度中の償還額を計算しました。なお、なぜ、建設国債の償還額がマイナスになるのか分かりません。 2 建設国債特例国債については、16年度末残高、17年中の発行高が分かっていますから、それを合計して新規財源債の16年度、17年度末の残高を計算しました。発行額も資料から分かりますので、差を取って償還額を計算しました。この額は1で計算した、建設国債特例国債の償還額の和と一致するはずで、実際にも一致しました。 3 普通国債の償却額の合計が資料から分かっていますから、新規財源債の償却額をここから差し引き、借換国債の償却額を計算しました。 4 借換国債の残高は資料から分かりますので、3で計算した償却額から17年度中の他の債務から普通国債への借換額を計算しました。 5 4の借換額と資料の新規財源債発行額を足して、普通国債の合計発行額を計算しました。この額は16年度末、17年度末の残高、償還額と整合する値になりました。 ただ、この計算にはうまく納得のいかない点があります。 一つは、建設国債の償還額がマイナス1.2兆円になっていることです。 二つ目は、他の債務から普通国債への借換額が8.3兆円の巨額に上っていることです。もしこれが正しければ、他の債務が大幅に減るはずです。しかし、「平成17年度(見込み)の国債・借入金残高の種類別内訳」を見るとそうはなっていないようです。 少し考えてみたのですが、建設国債を、発行という概念ではなく別な概念で増やす仕組みがあるのかもしれません。そうすると、建設国債の償還額がプラスになります。また、これに伴って、借換債の償還額が少なくなり、他の債務の普通国債での借換額も小さくなります。 なお、基金への超過繰り入れも、他の債務の普通国債への借換も、国の債務の入れ替えにすぎず財政の本質には影響しません。 cloudyさんが、モデルを作られるなら変則的な部分は抜きにして本格的な部分だけのものを作り、仮定の部分は注で示しておくという方法がいいのではないでしょうか。細かな部分に入っていくときりがありません。情報を十分入手できない個人の努力には限界があると思います。カリキュレーターの意義はそれでも損なわれないと思います。 なお、余談です。 借入金の内訳はこれです。「債務管理リポート2005」73ページ (http://www.mof.go.jp/jouhou/kokusai/saimukanri/2005/saimu2005.pdf) これを見ると16年度末の旧国鉄関係の借入金が2.6兆円です。このほかに「平成16年度(見込み)の国債・借入金残高の種類別内訳」で分かる国鉄などの承継国債が1.8兆円あります。これらは将来満期が来るたびに普通国債に借り換えられます。別に、すでに借り換えた国鉄関係の借換国債が17.3兆円あります。合計すると23.2兆円。旧国鉄の債務のうち一般会計で引き継いだのが25兆円ぐらいだったと記憶しているのですが、ほとんど減っていません。 さらに余談です。借入金の中に旧臨時軍事費414億円の借り入れがあります。これ残高が変わっていないし、本当に将来返すんでしょうか?返すとすると第二次大戦の戦費の償還は未だ終わっていないと言うことになりますが。 私の苦労を認めていただけるなら、ここをクリック ↓お願いします。 人気blogランキング 人気blogランキングでは「社会科学」の34位でした。