「ニートは救われるか?」のコメントに答えて

ニートは救われるか?」に「風の祈り」さんとInoueさんからコメントをいただきました。ありがとうございます。

どちらも私にとっては思考を刺激されるコメントです。いろいろ考えたので、お返事が長くなりますので記事にします。

このブログは、「実証派ブログ」を標榜しており、お読みいただいた方はよくおわかりいただけると思うのですが、統計を多用しています。

なぜ、統計による裏付けという方法をとるのか?

社会を構成している主体、個人、企業、NPO、役所、団体がたくさんあり、置かれている環境も違い、判断の基準も違う。これらは、主体ごとに違うと同時に、同じ主体でも時間が経てば変わってきます。

このような主体がどんな行動を取るのか、どんな影響を受けているのかは、実際に大規模な観察をしてみないと分からない場合が多いのです。

「風の祈りさん」は「本年度の新卒採用計画で、去年より増やすと答えた企業も『質を落としてまで人数を満たすつもりはない』と注釈しているようです。やはり景気うんぬんでは雇用は増えると思いません」とコメントされています。もし、これが大多数の企業がそういっているなら、そしてその通り実際に行動するなら、しかも、質を落とさないと採用を増やせない状況なら、採用は増えないかもしれません。

しかし、大多数の企業がそういっているのでしょうか?いくつかそう注釈している企業があるだけなら日本全体でそうなるとは言えないでしょう。

実際、そのように行動するのでしょうか?方針を転換する、アンケートに答えた担当者はそう思っていたが、実際に人手を使う部署の意見は違った、上司の判断は別であったなど、いったこととやることが違う要因はいくつもあります。

今、多くの企業が、質を落とさないと採用できないような状況にあるのでしょうか?

こういった問題は、いくつかの企業の担当者に聞くだけでは分かりません。たまたま企業内に余剰人員を抱えていて少しぐらい景気がよくなったからといって、採用を増やさない企業もあるでしょう。誰もが入りたい、学生、生徒に人気があって、質を落とさなくても、募集さえすれば十分な数の採用ができる企業もあるでしょう。そういう企業だと、強気の発言になるでしょう。そういう企業があることは否定しませんが、問題は日本全体ではどうか?です。

この問題に答えようとすれば、「「これからの若者は仕事を見つけられるか?」 続報」に書いたように、日本全体を捉える統計で把握するほかありません。そして、現在の日本では、景気回復とともに企業全体の新卒採用は増えています。

これが統計を作る一つの理由、統計を使う一つの理由です。

(ついでですが、「風の祈り」さん、「確か日経新聞に書かれていたと思いますが、」というのはできれば勘弁していただきたいです。どの新聞の何日付のものか分からないと元の記事を探すのに大変苦労します。)

もう一つの理由は、「人によって判断が違う」からです。これには二重の意味があります。

まず、人によって、あるいは会社によって判断は違うのだから「フリーター」経験をプラスに受け止める会社も、中立と考える会社も、マイナスと判断する会社もあり得ます。今の時点なら、多くの会社では、中立か、マイナスと考えるだろうというのは、ある程度仕事の経験を積んだ人間には、質問するまでもなく分かるかもしれませんが、具体的な分布は調べてみないと分かりません。

そして、これが大事なのですが、肝心のフリーターの皆さんは、必ずしも経験を積んだ人と同じ判断をするとは限りません。夢を見ていたり、目をそらしたりしている可能性はあります。さらに、これからフリーターになるかもしれない高校生となると、もっと未熟で、判断力がありません。

フリーターを指向する若者に大人(親や先生の場合が多いでしょう)が、単に「現実は厳しいぞ」、「フリーターなんて評価してもらえないんだぞ」といったところで、うるさいお説教と捉えられるおそれがあります。私がそういう話をしても、「うざったい」と思われるのが落ちのような気がします。杞憂でしょうか。具体的なデータを元に説明していく方が、多少は有効でしょう。

こう考えると、この質問は「愚問」だとは言えないと思います。厚生労働省の統計担当者は、フリーターの増加に危機を感じて、あるいは責任を感じて(なにせ、労働、雇用の担当官庁ですから)、「せめて、具体的なデータを提供しなければ」と思ったのではないでしょうか。フリーターというある意味で格好のいい言葉を作り出した会社や、一時期それをもてはやしたメディアに比べれば、相当まともな判断で、「愚問」とまで決めつけてはかわいそうです。

このように理論的には予想のつくことでも、具体的な数字で裏付け、その正しさ、程度を確認することは大事です。これも統計を作り、利用する理由です。

コメントのおかげで、無意識に考えていたことを言葉にすることができました。お二人のコメントに感謝します。

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