「不況は潜在成長率を下げる」に賛成

2016年5月14日付日本経済新聞朝刊の大機小機欄にカトー氏が「不況は潜在成長率を下げる」と題して書かれています。中身を紹介します。

データを見ると潜在成長率は景気の循環局面によって、上下動する。つまり、好況の時に潜在成長率は上がり、不況の時に下がる。」ということを指摘され、このような現象が発生する要因として「不況が長引くと物的資本や人的資本への投資が減少し、不況の影響が履歴のように潜在成長率に残っていく」という『履歴効果』を紹介され、そして「日本も『失われた20年』で企業の人材育成投資が減少した。」と主張されています。

これを踏まえて、「潜在成長率の低下は需要不足によるところが大きい。潜在成長率引き上げのためにも拡張的なマクロ政策が必要になる。消費税増税など持ってのほかだろう。」と主張されています。

共感できるところの多いご主張です。「少子化対策 就職氷河期の男性の雇用の改善を  」で取り上げたヤンガーミドルたちはまさに不況期に社会に出たため、人的資本の蓄積に向いた正社員の口が少なく、人材として育ちにくかった人々です。

そしてこれは単に彼らの人的資本が少ないという問題だけではなく、結婚、出産が少なく、彼らの子供世代の人数が少ないというルートを通じてより長期的に潜在成長率を引き下げる効果を持ったと考えられます。(2016年5月19日追記 個人の能力はある程度までなら後からでも訓練や研鑽によって、あるいは経験を積むことによって引き上げることができます。その意味ではリカバリーが可能なのです。しかし、生まれなかった子が後から生まれることはありません。効果は永続的です。特に女性が出産可能な年齢を超えてしまった時には手の打ちようがありません。)

もう一つ付け加えるなら、ヤンガーミドルのうち人的資本の蓄積の小さい人、未婚で結婚の見通しを持てない人は、一時的に好況になって自分の賃金収入が増えても、65歳までの収入を正当に低く見積もり、単身で迎える老後のことなどを考えて貯蓄に励み、消費を増やさないという行動をとる可能性があります。検証してみたいと思っているのですが、これが当たっていれば、輸出や投資や公共投資により生産が改善しても、消費が増えない、したがって本格的な景気拡大につながりにくいという体質に日本経済を変えてしまったかもしれません。40歳代前半は人口のボリュームの多い世代ですので、影響も大きいと考えられます。この世代の生活の安定と将来見通しの改善が必要でしょう。

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