ポジティヴな人手不足 対策は不要

しばしば語られる人手不足のストーリーは次のようなものである。 1 少子高齢化が進み、生産年齢人口が減る。 2 生産年齢人口が減ると、労働力人口も減る。 3 労働力人口が減ると、就業者も雇用者も減る。 4 企業は、現在雇用している労働者数も維持できなくなる。 5 これが人手不足だ。 すべて減ることが前提なので、これをネガティヴな人手不足と呼びたい。 このような人手不足は、将来くる恐れは高いし、その解決策を考えておくことは必要だ。その根本的な解決策が起点の少子化を止めることだというのには異論があるとは思えない。 では、現在の人手不足は、このようなストーリーで語られているようなものだろうか?そうではない。 1 確かに、現在、少子高齢化が進み、生産年齢人口は減りつつある。労働力調査で参考値と示されている年平均値を見ると15歳以上644歳までの生産年齢人口は、2014年には7、804万人であったが、2015年には97万人減って7,707万人になった。 2 しかし、生産年齢人口が減っても、労働力人口(65歳以上を含む。)は減っていない。2014年の6,587万人が、2015年には6,598万人に11万人増えている。15歳から64歳までだけを見ると38万人減っているが、65歳以上が48万人増えたためだ。 3 労働力人口が増える以上に、就業者も雇用者も増えている。就業者は6,351万人から25万人増えて6,376万人に達しているし、雇用者は6,351万人から45万人も増えて6,376万人になっている。 4 企業は、現在、雇用の拡大に成功しているのだ。 5 これも人手不足にはちがいない。しかし、ネガティヴな人手不足ではなく、ポジティヴな人手不足だ。 多くの企業が労働条件をあげて雇用を拡大しているときに、雇用を増やせない、あるいは減ってしまっている企業があるのは事実だろう。つまり、「雇い負け」している企業があるのだ。労働条件をあげられるということは、労働者の能力を活用し、労働条件を引き上げられるだけの付加価値を生み出している企業だ。雇い負けをしている企業は、労働者の能力を活用できていないと考えていいだろう。 なお、中には、高い生産性をあげていながら、労働者の労働条件を引き上げようとしない企業もあるかもしれないが、そういう例は希だろうし、労働市場の状況が改善し、労働条件が上がっていることを理解すれば自ら対応するだろう。平均賃金が上がっていないことを賃金が上がっていないと報道するマスコミを経営者が信じているのだとすれば、その企業に将来はない。 中期的にはネガティヴな人手不足になる可能性は高いと思われるので、低生産性の企業・部門から高生産性の企業・部門に労働力を再配分していく必要がある。今、まさにそのような再配分が行われつつあるのだ。 これまで20年近く、高生産性部門が低成長で、低生産性部門が高成長するという,、労働需要が不足している時期には受け入れざるを得ないが、長期的には望ましくない経済の実態があり、成長する低生産性部門への労働力の再配分が行われてきた。この再配分は労働条件の低下が伴い、社会的な摩擦も多かった。その中で経済的には平均生産性の伸びが低迷してきた。 望ましい再配分が始まり、若年男性の正規化が進めば結婚が増え、出生が増え、そして中長期的なネガティヴな人手不足が緩和される。今、低生産性部門に有利な人手不足対策をとるべきではない。 人気blogランキングでは「社会科学」の11位でした。今日も↓クリックをお願いします。 人気blogランキング