「雇用と賃金を考える(2013年10月)」 パートタイム労働者

今回は、「「雇用と賃金を考える(2013年10月)」 フルタイム労働者」の続きでパートタイム労働者の動きを見ます。

賃金からみていきます。毎月勤労統計の10月確報の調査結果(http://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/monthly/25/2510r/dl/pdf2510r.pdf)の第4表を見ると、現金給与総額は0.4%マイナス、きまって支給する給与は前年同月比(以下同じです)0.3%マイナス、所定内給与も0.5%マイナスです。もっともここまで見なくてもパートタイム労働者の場合、所定外給与も特別給与も微々たるものなので、所定内給与の動きが賃金の動きを決めてしまいますから、所定内給与だけを見ておくだけでも、大体の動きはつかめます。

こうしてみると、賃金面の状況はよくなかったと結論付けたくなります。

しかし、これは少し変です。ラスカルさんが「物価と給与の推移-2013年11月データによる更新」(http://d.hatena.ne.jp/kuma_asset/20140103/1388725884)で書かれているように「労働市場のタイト化が、パートなど非正規雇用労働市場や高卒新卒市場などで実際に起きている」というのが一般的な見解だと思います。なぜ、所定内賃金は下がっているのでしょうか?

答えは簡単で、所定内労働時間が減ったからです。パートタイム労働者の所定内労働時間は0.9%減っています。パートタイム労働者の賃金は、いわゆる時給をベースに決定されているケースが多いのですが、この時給に近いものが1時間当たり所定内給与です。単純に考えると、1時間当たり所定内給与は0.5%上昇したことになります。10月は1時間当たり所定内給与が平均より低い宿泊業、飲食サービス業のパートタイム労働者に占める割合が高まっていてマイナス方向に働いているのにこの結果です。労働市場のタイト化は確かに賃金を引き上げている様です。

こうなると、所定内給与の月額の減少だけで賃金の動きを評価するのは危険だということになります。必ずしも賃金の状況が悪いとは言えません。もっとももう少し、1時間当たり所定内給与が増加してほしいのですが。

次に雇用の動きを見ると、3.0%の増加です。4か月連続で3%を超えています。雇用は好調といえるでしょう。

パートタイム労働者が100万人以上いる産業で、好調なのは製造業(4.5%増)、宿泊業、飲食サービス業(4.3%増)、医療福祉(5.7%増)です。卸売り業、小売り業(1.4%増)はあまり増えず、その他サービス業(1.8%減)は減っています。

労働力人口はこんなに増えていませんし、フルタイム労働者の雇用も増えていますから、労働市場のタイト化は着実に進んでいると見るべきでしょう。

なお、労働投入の変化を簡単に試算してみると、雇用の増加3.0%-労働時間の短縮0.9%で、2.1%の増加です。時給を上げることによって、雇用を拡大させることができています。タイトになったとはいえ、0.5%の上昇で2.1%の増加ですから、パートタイム労働供給には、まだ余裕があるのかもしれません。

さて、こうしてみるとパートタイム労働者の賃金、雇用とも問題はないようです。前回みたようにフルタイム労働者の賃金、雇用も大きな問題はありませんでした。ではなぜ、全体では賃金はいい結果になっていないのでしょう。原因は二つです。

月額でみた賃金の低いパートタイム労働者の雇用の伸びがフルタイム労働者の伸びを上回ったこと、そしてパートタイム労働者の労働時間が短くなったことです。

パートタイム労働者の増加、フルタイム労働者の増加、パートタイム労働者の労働時間の短縮は、すべて労働市場のタイト化をさらに進める要因です。「パートタイム労働者構成比の高まりによる1人あたり賃金への減少寄与は、今後は縮小してくることも予想される。」というラスカルさんが「物価と給与の推移-2013年11月データによる更新」(http://d.hatena.ne.jp/kuma_asset/20140103/1388725884)での予想が当たれば、常用労働者全体の賃金が上がり始める日が来るかもしれません。

パートタイム労働者の供給がいつまで続くか、そしてフルタイム労働者の雇用がどれだけ増えていくか、これが今後の焦点でしょう。私が大事だと思っているのは平均賃金の上昇ではなく、労働者全体の賃金収入の増加です。若年層の雇用状況がよくないことを考えると、フルタイム労働者の雇用の拡大が優先事項であり、平均賃金の上昇にこだわる必要はないと考えています。

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