「雇用と賃金を考える(2013年10月)」 フルタイム労働者

雇用と賃金を考える(2013年10月)」の続きで、フルタイム労働者(毎月勤労統計では、「一般労働者」と呼ばれています。)の動きを見てみましょう。

まず、賃金の動きです。現金給与総額は、前年同月比0.6%の増加です。常用労働者全体(毎月勤労統計では、「就業形態計」と示されています。)では0.1%の減少となっていたのとは違います。

このうち、きまって支給する給与も0.4%増加です。これも常用労働者全体では0.3%の減少となっていたのとは違います。

私が賃金の基調を表すと考えている所定内給与は0.1%の減少です。常用労働者全体でも0.7%の減少となっていますから、減少方向に変わりはありませんが、減少幅は小さくなっています。

所定外給与は、6.8%の増加、特別給与も5.2%の増加です。両方とも、常用労働者全体と同じ方向の変化ですが、増加幅は大きくなっています。

フルタイム労働者の状況は所定内給与の0.1%減少という点を除けば、賃金面ではフルタイム労働者はそれなりにいい数字だといえると思います。

次に雇用を見ましょう。一般労働者の常用雇用指数は100.2(2010年平均=100)です。雇用には季節変動がありますので、同じ10月で指数をみると、2009年と2011年が100.2でした。

前年同月比でみると0.2%の増加です。9月の0.1%増加とほぼ同じです。これだけ見れば、大きな変化とは言えませんが、フルタイム労働者の雇用が連続して増加すること自体、久しぶりです。9月に増加に転じたのですが、その前に増加したのは2012年5月(0.2%増加)です。この時はひと月だけの増加でした。前回増加が連続したのは、2006年5月から2009年2月までの34か月間です。この時、一般労働者の常用雇用指数は、97.9から100.3まで上がっています(季節調整値では、97.4から100.9まで)。今回も、せめてこれぐらい増加が持続するといいと思うのですが。

雇用の面でもフルタイム労働者の状況は、悪くはありません。

では、賃金と雇用を合わせて、フルタイム労働者全体の賃金収入がどれだけ増えたか計算してみると、現金給与総額をベースにすると、0.6%+0.2%=0.8%となります。CPIの総合で実質化した場合は、0.3%マイナスです。所定内給与をベースにすれば、賃金収入は0.1%の増加、実質ではマイナス1%です。勤労者の消費を安定的に増やすという観点からは、もう少し、賃金と雇用が増加する必要があります。

なお、一人当たり総実労働時間は、0.6%のマイナスですから、フルタイム労働者全体の労働投入量の変化を計算すると、雇用が0.6%増加なので、ちょうど打ち消しあい前年と同じ水準になります。生産の回復がさらに進み、労働投入を増やしたいと企業が考えるようになる必要があります。

余談ですが、私は、毎月勤労統計の所定内給与のマイナスをそれほど悲観的には見ていません。毎月勤労統計の賃金は平均賃金です。例を作って説明しましょう。

平均賃金が50万円から40万円に減ることを考えます。このような変化のケースはいくつか想定することができます。

まず、賃金が40万円の労働者が一人、60万円の労働者が一人いるとします。二人合わせると100万円円を受け取っています。平均賃金はこれを二人で割って50万円です。

ケース1

60万円の労働者が解雇されてしまい40万円の労働者一人に減るケース。雇用も減り、労働者全体の賃金収入も減っています。最悪のケースです。

ケース2

二人とも賃金を10万円削られ、30万円と50万円になるとします。雇用は減りませんが、二人合わせた賃金収入は80万円に減っています。悪いケースです。

ケース3 

二人の賃金はそのままで、新たに賃金20万円で一人雇い入れられた場合。雇用は3人に増え、3人合わせた賃金収入も120万円に増えます。120万円を3人で割って平均を出すと40万円です。これは改善と考えるべきだと考えています。

ポイントは、平均賃金の低下と同時に雇用が増加しているかどうか、労働者全体の賃金収入が増えているかどうかです。どちらも増えているのであれば悲観する必要はありません。

現在、フルタイム労働者の新たな雇い入れが行われるとすれば、若い人が中心でしょう。若い人の賃金は低いので、若い人の雇用が増えれば平均賃金は下がります。これは悪いことではありません。若い人の雇用を増やせ、平均賃金は下げるなというのは無理な話です。フルタイム労働者の雇用が増加している限り、あまり平均賃金の低下を気にする必要はないと思っています。現在の状況からいうと、今年4月の新卒採用は昨年の新卒採用よりも増えそうです。若い新卒者の採用は、平均賃金を下げる方向に働きますが、4月に平均賃金が下がっても、これが原因なら問題はありません。

閑話休題

フルタイム労働者の賃金も雇用もそう悪くないのに、常用労働者全体が悪いのは、パートタイム労働者に問題があるか、フルタイム労働者とパートタイム労働者のバランスが悪いのかどちらかです。次回は、この問題を取り上げます。

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