有期契約法制の改正

日経新聞のこの記事の最後で引っ掛かりました。

改正労働契約法、勤続5年で無期限雇用 パート待遇改善へ道

2012/8/3 23:37

 同じ職場で5年を超えて働いているパートや契約社員を対象に、本人が希望すれば無期限の雇用への切り替えを企業に義務づける改正労働契約法が3日、成立した。正社員との理不尽な待遇格差の改善に道が開けたが、パートが戦力となっている製造業や小売業などには負担増にもなる。企業側がパートの契約更新に慎重になるおそれもあり、運用には課題も多い。

 労働基準法は1回の雇用契約を原則3年以内と定めているが、何度も契約を結んだ場合の雇用ルールはこれまでなかった。契約更新を繰り返し、5年を超えて同じ職場で働いたパートや契約社員は企業から突然雇い止めされる不安がなくなる。

 改正法は2013年度中に施行される見通し。施行後にパートや契約社員派遣社員が結んだり、更新したりした契約が対象になる。施行直後に雇われた人の勤務期間が5年を超える18年度から影響が広がりそうだ。

 厚生労働省の試算では、10年の雇用者5111万人のうち、雇用契約の期間が決まっている契約社員やパートは2割強にあたる1200万人。そのうち勤続年数が5年を超える労働者は360万人に上り、企業は対応を迫られることになる。

 産業界の受け止めは様々だ。ある大手ハンバーガーチェーン店は5年以上働く従業員が多く、「店舗売上高が減ったとしても、その店の従業員数を減らしにくくなる」と人員配置の硬直化を懸念する。

 国内に1600人の契約社員を抱える日立製作所も「人件費への影響は避けられない」とする。今後は契約社員を雇う際に期間を5年以内にするなどの対策を考えるという。自動車メーカーも多くの期間従業員を雇っているが、契約期間は一般に1~3年。契約更新で5年超となるケースは少ないとみられ、「法改正の影響は少ない」(ホンダ)という。

 一方、イトーヨーカ堂は「長期間働くパートはやる気があり、安定した雇用の環境整備につながる」と歓迎する。人件費などのコスト増を嫌って5年目直前での契約を打ち切る可能性については「経験者は大事な戦力。無理に辞めてもらうことは考えづらい」(ファミリーマート)との声が出ている。

 企業負担に配慮し、改正法は別の会社で働くなど会社を離れた期間が6カ月以上あれば、5年の積み上げの対象にしない規定を盛り込んだ。途中に雇用契約のない空白期間を挟めば、企業が何度でも契約更新できるため、かえって雇用が不安定になるとの指摘もある。

 期間を定めない雇用に転換する場合には、企業は原則、給与や勤務時間などの労働条件を同じにする必要があるが、正社員並みに待遇を大きく改善することは求めていない。

(引用終わり)

有期契約から無期契約に変わるというのは契約内容の大きな変更ですから、給与や勤務時間が変わってもおかしくありません。どう変えるか、あるいは変えないかを当事者同士の話し合いで決めるのが原則です。「企業は原則、給与や勤務時間などの労働条件を同じにする必要」などありません。契約ってそういうものです。

問題は、改正法のこの条文の理解でしょう。

第十八条 同一の使用者との間で締結された二以上の有期労働契約(契約期間の始期の到来前のものを除く。以下この条において同じ。)の契約期間を通算した期間(次項において「通算契約期間」という。)が五年を超える労働者が、当該使用者に対し、現に締結している有期労働契約の契約期間が満了する日までの間に、当該満了する日の翌日から労務が提供される期間の定めのない労働契約の締結の申込みをしたときは、使用者は当該申込みを承諾したものとみなす。この場合において、当該申込みに係る期間の定めのない労働契約の内容である労働条件は、現に締結している有期労働契約の内容である労働条件(契約期間を除く。)と同一の労働条件(当該労働条件(契約期間を除く。)について別段の定めがある部分を除く。)とする。

( )書きの部分を読めば、明確ですが、私的な契約の中身がどんなものであろうと、国の権力で契約の中身を変えてしまう、つまり私的な契約よりも国の法律のほうが優先するという法律ではありません。私的な契約で別段の定めをしておけばそちらが優先されるのです。

有期契約から無期契約に変えるところだけ決めておいて、他の労働条件が決まっていないと不完全な契約になってしまいます。だから、私的な契約がない場合にどうするかを決めてあるということになるでしょう。その場合、従来の契約内容を尊重して、その契約のままとするというのは、法律としては自然な方法であると思います。

そこで、これまでどおり5年目に契約を結んで、労働者から申し込みがあったときに相談するという対応もあり得るでしょう。この場合には、労働者には元の契約を維持する権利がありますから、一方的な労働条件の切り下げはできないでしょう。バランスのとれた契約変更しかできないはずです。

もう一つの対応は、5年目の有期契約を結ぶときにあらかじめ無期契約になった時の労働条件を定めておくことです。つまり、5年目の労働条件と同時に無期になったときの労働条件もセットで決めることになります。この場合、5年目の労働条件だけを交渉していた時とは異なる結果が決まる可能性があります。無期になったときの労働条件が付け加わるのは当然ですが、5年目の労働条件も変わる可能性があるのです。労働者にとって無期になれることの魅力が大きければ、無期になったときの労働条件で譲歩するか、5年目の労働条件を下げてでも契約を結んだほうがいいということになります。

より現実的なのは、二つ目の対応でしょう。

さらに言うと、現在、就業規則を無期と有期で分けている場合、無期になった瞬間に無期の就業規則が適用されることになります。これは別段の定めに当たりますから。この点では、就業規則を改正して、有期から無期に転換した場合の労働条件を決めておくという必要が出るでしょう。

私が関心を持っているのは、雇用調整をする場合の扱いです。人員整理をする場合に、最初から無期契約で入った人を解雇する前に、有期から無期へ転換した人を解雇するルールを作る企業が出てくるかもしれません。さまざまな変形があり得ます。日本では無期契約の労働者の解雇の優先順位をあらかじめ決めておくというシステムはほとんどないのですが、今回の改正を契機に作られ始めるかもしれません。もしできれば、発展、波及していく可能性があり、日本のワークルールの大きな転換になるでしょう。

人気blogランキングでは「社会科学」の24位でした。今日も↓クリックをお願いします。

人気blogランキング