結合生産物としての若手研究者

大竹先生が「人件費は研究費でないのか?」と事業仕訳での若手研究者の人件費の扱いを批判をされている。 大竹先生の批判は妥当なものだと思う。特に「研究には、確かに研究機材を買ったり、試薬を買ったり、調査をしたり、というところにお金ががかるのは事実である。しかし、モノさえあれば自動的に研究成果が出てくるわけではない。一番大事なのは、ヒトである。」という部分には心から賛成する。その上で、次の部分の一部修正を提案したい。 「優秀な大学院生やポスドクが研究の最前線にいて、どれだけ優秀な人材を集め、育てるかが研究の成果を決める最大の要因になっている。その意味では、優秀な人材を集め、育て、活躍させるという『人件費』こそが研究の質を左右するはずである。」 「技術進歩の中立性」で、Y(t)=F{K(t)、L(t)}というタイプの生産関数(Yは産出、Kは資本、Lは労働投入、tは時点)を考え、そのうえで外性的な技術進歩を示すために時間とともに変化するA(t)という要素を導入して技術進歩の中立性の説明をしました。 このような生産関数の考え方とは別に、次のような生産関数を考えることも可能です。簡単化のために資本を省略します。 Y(t)、L(t+1)=F{L(t)} ここで、L(t)はt期の生産に投入された効率単位ではかられた労働ストックです。そして、L(t+1)はt+1期の生産に投入可能な労働ストックです。これも効率単位ではかられています。老化や死亡により労働ストックは減りますし、学校を卒業して労働市場に登場する労働者もいますが、簡単化のために、ここではそれをゼロと考えます。 この生産関数では、ある期に労働者を生産過程に投入すると、生産物ができるのと同時に、生産過程で経験を積んだ労働者が生産されることが表されています。このように一つの生産過程で二つ以上のものが作り出されることを結合生産、作りだされるものを結合生産物と言います。経験を積むことにより生産性は向上するのが普通ですから、一般にL(t+1)>L(t)です。効率単位ではかられた労働ストックが増加することにより、経済は成長します。ある期に労働者を雇用することが、時期の生産能力の拡大につながります。 この生産関数を研究に適用すると、ある期の研究活動によって生み出されるのは、その期の研究成果だけではありません。次の期に研究に従事する研究者(もしポストがあればですが)も生みだされます。したがって研究の成果だけで研究を評価をするのは誤りです。将来の研究に携わる若手研究者の能力が養われたことも考慮すべきです。 以上を踏まえた、修正案は次の通りです。 「優秀な大学院生やポスドクが研究の最前線にいて、どれだけ優秀な人材を集め、育てるかが研究の成果を決める最大の要因になっている。同時に、その過程で若手研究者が育つことを無視してはならない。その意味では、優秀な人材を集め、育て、活躍させるという『人件費』こそが研究の質と将来の研究の可能性を左右するはずである。」 研究には不確実性がついて回ります。期待された成果が出ないこともあり得ます。しかし、失敗した研究であっても研究者は養成されます。若い時の失敗の経験が将来の研究の役に立つこともあるでしょう。若手研究者から経験を積む機会を奪ってはいけません。 世界一を目指す研究をしなければならないのは、世界一の研究成果を生み出すためだけではなく、世界最高水準を目指して研究をすることによって、世界水準の研究者を養成するためでもあるのです。 人気blogランキングでは「社会科学」の36位でした。 今日も↓クリックをお願いします。 人気blogランキング