ハローワーク その5

(2009年12月26日、一部追加しました。)

ハローワーク その4」の続きです。

「福祉行政を実質的に所管している地方自治体が、働けるものは職業紹介・職業訓練へ、働けないものは生活保護へという、総合的な行政を担うべきだという考え方が強まっている。このためさまざまな地方自治体の行政と一体的な雇用対策をおこなうためにも、公共職業安定所の機能を都道府県に移管する」のがいいという意見があります。

変な意見です。まず、現在、「福祉行政を実質的に所管している地方自治体」とは市、東京都の特別区です。都道府県が実質的に担当しているのは、町村部だけです。

つまり、この提案は「公共職業安定所の機能を福祉行政を実質的に所管していない都道府県に移管する」ことにより、福祉行政と職業紹介行政からなる「総合的な行政」をおこなわせようとするものです。どう考えるとこういう提案が出てくるのでしょうか?

さらに、深刻な問題があります。公共職業安定所地方自治体に移管した時、果たして地方自治体はその運営に力を注ぐのでしょうか?「総合行政の非効率-選択肢があるばかりに-」で紹介したように、全体としてみれば、地方自治体は福祉行政に必要な人材の養成、確保に十分な成功を収めているとは言えないようです。(福祉事務所のみなさん、間違っていたらすいません。また、みなさんを批判するつもりはありません。あくまでシステムを問題にしているだけです。)

私は経済学を学んだので、経済学的な思考をしてしまいます。ミクロ経済学では、主体は自分にとって良いもののの基準をもっていて、この基準に従って、可能な範囲から自分にとって最も良いものを選ぶと考えます。

家計であれば、それぞれ自分の好み(選好)を持っていて、どれだけのものを買えるか(予算制約)を考え、買える範囲で最も好みに合った買い物をします。企業であれば利潤を最大にしたいという目的を持っていて、生産の技術的条件や価格を考えて、利潤が最大となるような生産を行います。

地方自治体も何ら変わることはないはずです。地方自治体の場合、選挙で選ばれた知事や市町村長、同じく選挙で選ばれた議員、公務員、住民のバランスの中で選択の基準が決まるという特殊性はあるでしょう。予算の制約があるのは家計と変わるところがありません。国の制約を受けることなく自治体の判断で予算が使えるとき、自治体は何らかの選択をします。

その中でハローワークに現在以上の力を注ぐかどうかは、全く分かりません。よく、おかしなことをしたら選挙に落ちるからおかしなことは起こらないと主張されます。しかし、限られた予算の中での選択である限り、ハローワークには力を入れずに企業誘致に全力を注ぐ、あるいはオリンピックの誘致を進める、公営病院の運営に力を入れる、ごみ焼却場の建設を進めるなどの選択もあり得るのです。

残念なことに、地方分権改革推進委員会の議論では、地方自治体がどのような選好を持っているか、実証的な検討が行われませんでした。

私はすべての地方自治体がハローワークに力を入れるとは思えません。ハローワークナショナルミニマムとして必要なら地方自治体の自由に任せることはできないでしょう。また、全国的なネットワークに穴があいては困るなら、困ると思いますが、やはり、地方自治体にまかせせるべきではありません。

なお、地方自治体がハローワークの業務をおこなうには財源が必要です。財源も一緒に移すなら、政府のコストが減った文地方自治体に財源を渡さなければなりません。この案でも「労働基準監督等への業務の移動を積極的に進める」財源が出てくるとは思えません。

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