「相対的貧困率」は、格差の指標とは言い切れない

[つまるところ、相対的貧困率というのはもっぱら格差の指標であって貧困の指標ではないということなのですね(実際、日経新聞はわざわざ「経済格差を表す指標」と書いているわけで)。(http://d.hatena.ne.jp/roumuya/20091028)」という意見があります。 絶対的貧困の指標でないことは確かですし、資産が考慮されていないなどの問題があることもそうなのですが、「格差の指標であって、貧困の指標ではない」とまでいわれると、ちょっと異論があります。 等価可処分所得で作った例で、一番等価可処分所得の高かった 山田さんの可処分所得を2倍の1,200万円にします。そして、貧困線以下だった高橋のおばあちゃんの可処分所得を半分の40万円にします。 するとこうなります。 4人家族の山田さん。ご夫婦のほかにおばあちゃんと子どもがいます。おばあちゃんが孫の面倒を見てくれるので、奥さんもフルタイムで働いています。夫婦の可処分所得1,200万円。一人当たり可処分所得は、300万円。等価可処分所得600万円です。 夫婦二人暮らしの田中さん。奥さんは結婚してフルタイムの仕事を辞めましたが、まだ子どもがいないのでパートに出ています。夫婦の可処分所得は382万円。一人当たり可処分所得は、191万円。等価可処分所得は270万円です。 学校を出たばかりで一人暮らしをしている中村さん。正社員の口があったので可処分所得は220万円です。一人当たり所得も、等価可処分所得も220万円です。 小さな子供が一人いる佐藤さんご夫婦。ご主人はフルタイムですが、子どもに手がかかるので奥さんは専業主婦です。ご主人の給料だけなので可処分所得は364万円。一人当たり可処分所得は121万円。等価可処分所得は210万円。 中学生と小学生のお子さんのいる鈴木さんご夫婦。ご主人はフルタイムですが、奥さんは教育費のことも考えてパートです。夫婦の可処分所得は400万円。一人当たり可処分所得は100万円。等価可処分所得は200万円。 年金暮らしの高橋さんのおばあちゃん。旦那さんに先立たれて年金と貯金の取り崩しで生活しています。可処分所得40万円。(貯金の取り崩しは可処分所得ではありません。)一人当たり所得も40万円。等価可処分所得40万円です。 この場合、相対的貧困率を計算してみましょう。 この15人を等価可処分所得の高い順に並べてみると、こうなります。 1 山田さんのご主人 2 山田さんの奥さん 3 山田さんのおばあちゃん 4 山田さんのお子さん    等価可処分所得は全員600万円です。 5 田中のご主人 6 田中さんの奥さん     等価可処分所得は全員270万円です。 7 中村さん         等価可処分所得は220万円です。 8 佐藤さんのご主人  9 佐藤さんの奥さん 10 佐藤さんの御宅の小さなお子さん 三人とも等価可処分所得は210万円です。 11 鈴木さんのご主人 12 鈴木さんの奥さん 13 鈴木さんのところの中学生のお子さん 14 鈴木さんのところの小学生のお子さん 等価可処分所得は200万円です。 15 高橋さんのおばあちゃん。 等価可処分所得40万円です。 等価可処分所得は世帯単位で考えますから、同じ世帯ならみんな等価可処分所得は同じです。 さて、この15人のうち、ちょうど真ん中、8番目の佐藤さんのご主人の等価可処分所得を、等価可処分所得の中央値と言います。この15人の等価可処分所得の中央値は210万円です。 等価可処分所得の分布の真ん中という意味です。等価可処分所得の平均値ではありませんので注意が必要です。 等価可処分所得中央値の半分の額は、変更を加えたこの例でも210万円÷2=105万円が貧困線で、修正を加える前の例と何ら変わりがありません。 全体の人数のうち等価可処分所得が貧困線に満たない人の割合である相対的貧困率を新しい例で計算します。貧困線105万円に足りないのは高橋さんのおばあちゃん一人だけです。ですから相対的貧困率は1人÷15人≒6.7%です。全く変わりがありません。 上位と下位の差が開いても相対的貧困率に変わりはありません。 貧困で、「日本において高まっているのは、相対的貧困率であり、つまりは上流と下流の格差が広まっているというものであります。」と書かれていますが、新しい例と元の例の比較からもわかるとおり、必ずしもそうではありません。 経験的に知られている所得分布の特徴として、高額所得者の影響が強いために平均値が中央値(中位数)を上回るということがあります。これは、平均値よりも中央値のほうがその社会で標準的な家計、普通の家計とみなされるものの実態をよく表すということです。 したがって、相対的貧困率というのは、単純な格差の指標と言うよりも、その社会で普通の暮らしをしている世帯の半分に足りない等価可処分所得しか得ていない人の人数の割合です。 要するに、フローの所得だけでは世間並の暮らしに追いつけない、かなり差をつけられているわけです。これはやはり世間的にいえば貧乏ということでしょう。そいういう意味で、相対的に貧困な人の割合なのです。 (2009年11月16日追記) こうも表現できると思います。世の中を暮らし向きにゆとりのあるグループ(裕)、普通のグループ(普)、苦しいグループ(苦)に分けてみましょう。相対的貧困率は、グループ間の等価可処分所得の格差ではありません。人口のうち、裕グループ、普グループの割合を示してもいません。これらの変化は相対的貧困率に直接影響を与えません。この率の示しているのは、苦グループの人口の割合です。 ここをクリック、お願いします。 人気blogランキング 人気blogランキングでは「社会科学」では20位でした。