コンメンタール その2

コンメンタール」の続きです。

「また不完備契約理論については、これも労働経済学では、転職すると企業内での教育投資の効果が発揮できなくなるような当該企業固有の投資、これを企業特殊的投資というんですが、これがあるから不完備契約になるという理論があるのですが、

そんな投資は普遍的ではない。多くは、どの労働者にとっても共通の知識、技能であると言って、その根拠を否定します。また、企業が機会主義的行動をとるという前提に対しても、そんな蓋然性はあまりない、もしその企業が機会主義的な行動をとるのであれば、雇用契約を完備契約、つまり、起こり得ることをすべて書き込んだ契約に近づけるために詳細で客観的な契約条項を規定すればいいんだ、それが大事だという言い方をします。」

1 企業特殊的投資

ある企業が特殊な製品を作っており、この製品を作るためには労働者が特殊な技能を持っていることが必要だとします。この技能は他の企業では役に立ちません。これを企業特殊技能と呼びます。さて、この技能を身につけるために労働者は長い間努力しなければならないとします。その間に他の企業でも活用できる技能を身につけることはできないとしましょう。このような技能を身につけるのは労働者にとっては、自分(の技能)への投資です。これを言っています。私の好みでは企業特殊的人的投資です。その企業独自の技能ですから、通常、その企業の中に入り、その企業で働いて、そこで働いている労働者(上司や先輩)から指導を受ける必要があります。自分一人だけで身につけることはできません。ある意味では、企業が労働者に投資をするのです。労働者にそのような技能を蓄積させていくやり方も、企業独自のものでしょう。問題を複雑にさせるのは、この身に付いた技能が労働者のものであるということです。

2 短期契約と長期契約

このような企業特殊的人的投資を行うのは、どのような労働者でしょうか?請負労働者や短期契約の労働者ではこのような長期にわたる努力をすることはありません。また、ある程度長くつとめてくれる労働者に対してでないと企業もコストを掛けて訓練することに利点を見いだせないでしょう。つまり、どちらから見ても長期契約の労働者でなければなりません。また、オンザジョブも含めて訓練にあたりその都度必要な指示を与えるためには、このような労働者を指揮命令の下に置く必要があります。長期契約で指揮命令をすることができる契約といえば、長期、あるいは期間の定めのない雇用契約です。これが不完備契約になりがちだというのは前回説明しました。

3 ポートフォリオ

企業としては、企業特殊的人的資本が必要とされる労働者には、長期雇用契約を、そうでな労働サービス提供者には、短期の雇用契約か、あるいは雇用契約ではない形の契約を求めることになるでしょう。そして、解雇の問題が発生しやすいのは、この企業特殊的人的資本が必要とされ、長期雇用契約を結んでいる労働者です。

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