厚生経済学の第一命題

自由主義経済を擁護する理論的な根拠として、「自由市場経済で実現する資源配分は『パレート最適』である。」という「厚生経済学の第一命題」があります。

この命題は、ひどく抽象的で分かりにくいと思います。この命題にたどり着くまで、ケネーあるいはアダムスミス以来の、多くの経済学者が長年、努力して、ようやくたどり着いた命題です。分かるよう努力するに値する命題です。

ここで、自由市場経済というものは、どの様なものかを考えておく必要があります。非常に単純化していえば、経済主体が自発的な交換を行うことのできる社会です。

まず、基本手な条件として自分の持つものを他人の持つ何とどのような条件で交換するかが、個人の自由になっていなければなりません。契約自由の原則です。労働市場に即していえば、自分の労働をどのような形で、誰に提供するかの自由、職業選択の自由が認められていなければなりません。また、強制労働も禁止されていなければなりません。したがって、それら認められないような職業が身分によって決められるような社会や奴隷制度を認めている社会は、自由主義経済とはいえません。

この自由について、制約があります。例えば麻薬の取引のようなものは、認められません。また、犯罪を職業とすることも認められないのはもちろんのことです。

次に、財・サービスに対する所有権が確定し、保護され、契約の履行が強制されていることが必要です。自分の持っているものを他人が勝手に持っていくようでは、交換ができません。また、契約の履行が当事者の実力如何であるようでは、円滑な取引は困難です。

このような制度的な枠組みを前提に、経済とは何かを考える必要があります。

この命題が議論されるとき、家計と企業の二つの経済主体が対となっている経済が想定されています。

家計は企業に労働サービスという生産要素を提供し、その対価として賃金を受け取ります。また、生産要素である土地(広い意味で資源です。)も企業に提供し、その対価として地代を受け取ります。また、企業に資本を提供し、企業の利潤を配当として受け取る権利を持ちます。家計は、これらの収入で、企業から受け取る収入を下に企業から消費財・サービスを購入します。そのとき自己の選好に従って、効用を最大化するようにします。

企業は、自己の持つ生産技術の下で、家計から受け取った労働、土地、資本を用いて、生産を行います。生産した財・サービスを販売します。そのとき利潤を最大にするような生産要素の購入量、生産方法、生産量を選びます。ここで、企業が家計の持っているような選考を持たないことは重要です。仮に企業が男性に対する選考を持ち、女性を雇うことを嫌うようであれば、利潤最大化以外の目的を持つことになり、第一命題は成立しなくなります。仮に、女性に対する差別を行うにしても、それは利潤最大化の目的達成のものでなければなりません。

このような制度の保障があって、初めて自由主義経済でありえるのです。

さて、そのような経済があったとして、第一命題が成立するには、少なくとも六つの条件が必要です。

第一の条件 市場が存在していること(市場の存在)

第二の条件 取引の当事者が取引される財・サービスの質と価格について完全な情報を持っていること。(完全情報)

第三の条件 すべての家計の効用とすべての企業の利潤は市場で取引されている財・サービスのみによって決まること。(広範性)

第四の条件 市場に参加する経済主体はすべて価格受容者であり、市場価格を所与のものとして行動すること。(完全競争)

第五の条件 市場が均衡に速やかに達すること。

第六の条件 各主体が速やかに意思決定をする能力を持っていること。

次回以降、これらの条件と労働市場の関係を考えていきたいと思っています。

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