選好と効用関数
「労働供給の異時点間代替(intertemporal substitution)」で、効用関数を使ったので、少し説明を。
選好関係
ミクロ経済学の消費者の理論の基礎にあるのは選好です。これから効用関数が導かれます。
消費者(家計)は、二つの消費計画xとyについて次の三つの評価のいずれかひとつを持つと仮定する。
1 xをyより好む。
2 xとyを同じように好む。
3 yをxより好む。
このような消費者(家計)の好みを選好関係と呼んでいます。どちらがいいかというだけの問題で、何倍いいかと言ったことは出てきません。このようなシンプルな仮定だけで済むところがいいのです。
効用関数
この選好関係を数値で表したものが効用関数です。
効用関数uを、
1 xをyより好む場合、u(x)>u(y)。
2 xとyを同じように好む場合、u(x)=u(y)。
3 yをxより好む場合、u(y)> u(x)。
となるように定義すれば、選好関係を効用関数の形で表せます。
ところで、u(x)>u(y)となるようuを定義すれば、kを正の実数としてv=kuと定義したvも、
v(x)>v(y)
となり、同じ選好関係を数値で表したもの、つまり効用関数になります。
このように同じ選好関係を数値的に表現するとき、表現する効用関数は無数にあるのです。このような関数の値そのものは、本質的ではありません。たとえば、xに対応する効用関数の値が10、yに対応する効用関数の値が5であっても、xに対応する効用関数の値が30、yに対応する効用関数の値が1であっても、同じ選好関係を示しているのです。前者の場合にxがyの2倍望ましいとか、後者の場合にxがyの30倍望ましいといった意味はありません。元になっている選好関係にそのような性質がないのですから当然です。両者とも消費者(家計)にとってxがyより望ましいということを表しているだけです。このように、本質的なのは関数の値の大小関係なのです。
限界効用と限界代替率
さて、効用関数の式が決まると、これから限界効用を計算することができます。効用関数の値自体に本質的意味が無い以上、限界効用の値自体にも、本質的な意味はありません。問題なのは、限界効用が正か負かだけです。(通常の財は、正です。負となるのは労働です。)この点は、消費財の数がひとつである場合にも、複数ある場合にも同じです。
ところで、消費財が二つ以上ある場合には、ある財が増えたときの限界効用、もうひとつの財が増えたときの限界効用を考えることができます。そしてこの場合には、二つの限界効用の比を計算することができます(スカラーになります)。
先ほど説明したとおり、効用関数の値の比には本質的な意味がありません。これから、限界効用の値の比も本質的な意味がないと類推されるかもしれません。ところが限界効用の比は経済学的に見て非常に大きな意味を持っているのです。
この点を、やや詳しく説明します。
効用関数をU(x,y)とします。この関数は微分可能であるとします。
xの限界効用はdU/dx、yの限界効用はdU/dyと書ける。
効用関数Uの値Uを一定に保つようなxとyの組み合わせを考え、yをxの関数y(x)とします。すると、効用関数はŪ=U(x,y(x))となる。これをxで微分すると、
0=dU/dxdx+dU/dydy
となります。
dU/dxdx=-dU/dydy
-dy/dx=dU/dx/dU/dy
この式の左辺は第1財の量を1単位増やしたとき第2財がどれだけ減れば効用が変わらないかを示したものです。これを第1財と第2財の限界代替率(Marginal rate of substitution;MRS)と呼んでいます。右辺は第1財と第2財の限界効用の比です。
限界効用の比は、限界代替率であり、効用水準を一定に保つとき第1財1単位が第2財何単位に相当するかを示ものです。このように限界効用の比にははっきりとした経済学的意味があるのです。
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