介護事業

経済評論家の山崎元さんが、「介護の値段はどうなっているのだろうか?」で、次のような問題提起をされています。

最終的には、事業者が儲かり、介護職の方も満足な報酬を得る形でないと、事業としての介護は存続できないでしょう。一方、その場合に、そのためには、利用者が幾らぐらい、どんな形で支払う必要があるのか、という問題も重要であり、もちろん、支払う側も満足するようでなければなりません。

 (1)人生の最終盤を、気持ちよく過ごすには、幾ら掛かるのか? (2)介護ビジネスは旨みがあって儲かるのか? (3)どのような仕組みで介護サービスを提供すれば多くの人が満足できるのか? 読者のご教示とご意見ををお待ちしたいと思います。

できる範囲で、お答えをしてみます。

(1)人生の最終盤を、気持ちよく過ごすには、幾ら掛かるのか? 

ストレートに○○万円とはお答えしかねるので。決定要因をいくつか並べておきます。

「人生の最終盤」が、どれぐらい長いか、つまり、どれぐらい長生きするか、これが基本です。もし、平家が明日死ぬなら、平家の「人生の最終盤」はここ一月、1年ぐらいですから、大してかかっていません。喜ぶべきか、悲しむべきか?そもそも、気持ちよくすごしていたかどうか、疑問がありますけれども。(^^);

「人生の最終盤」が長くなることによって、問題が発生しているのです。介護については「昔は家族が面倒を見ていた。」とおっしゃる方も多いのですが、昔は寿命が短く、特に介護が必要な状態になると、すぐ体が弱りなくなっていたのです。長期間にわたる介護というのは、それほど多くなかったのではないかと思います。医療についても、ある程度までは、そうです。

長生きすれば、人生の最後の段階では、人に頼ることが多いと思います。病気の世話、介護などがその典型でしょう。 どの程度、自分で自分の世話ができるか、人に世話にならずに済むかが大きく影響するでしょう。

後は、人件費の相場ですね。

最後に、医療保険制度や介護保険制度がきちんと機能し続けるかどうかです。もし、破綻してしまい、すべて自分の貯金で、ということになると、これは大変です。

(2)介護ビジネスは旨みがあって儲かるのか?

実にいいご質問で今回、考えてみるまでは、ローリスク・ローリターンだと考えていましたが、違うことに気がつきました。

保険制度がうまく運用されていれば、ローリスク・ローリターン、適正に運営されなければハイリスク・ローリターンです。

うまく運用されている場合

ローリスクの理由は三つあります。

最初に潜在的な需要ですが、基本的には拡大を続けますし、急に需要が減ってしまうということはあまり考えられません。インフルエンザなどの感染症が猛威を振るった場合は、一時的に需要が減ることはあるでしょうが。

次に、売り上げに対する利益率ですが、これは低すぎれば供給がなくなるので、制度が適正に運営されている限り、一定の率は保障されることになります。

信用リスクは、高くありません。9割は国が払ってくれますから、書類にやかましかったりすることはあるでしょうが、貸し倒れリスクはほとんど考えなくていいでしょう。

また、確実なキャッシュフローが見込めますから、運転資金は信用金庫などが貸してくれるはずです。資金繰りにもそれほど苦労はないと思います。

ローリターンの理由は、ただひとつ。国民や国の監視の目が厳しく、大もうけできるほどの価格設定はしてくれないからです。利益が出て、経営者が豪邸を建てたりしていれば、必ず、介護報酬が引き下げられます。「こちら」が参考になると思います。

制度がうまく運営されていない場合

うまく運営されているというのには、基本的に次の二つがなされている場合です。

1 潜在的な需要を顕在化させる程度の介護サービスの価格(介護報酬)が設定がされていること。

2 出てきた需要に対して適切な水準のサービスる程度の介護サービスの価格(介護報酬)が設定がされていること。

付け加えますと、この価格は環境変化に応じて、機動的に変更する必要があります。

まず、高すぎる介護報酬が設定された場合、自己負担が大きく、需要が減少します。これはリスクです。しかし、もっと深刻なのは、低すぎる介護報酬が設定されたときです。人件費が払えなくなり、労働者を集められなくなります。事業を縮小するか、赤字を出して事業を継続するかという、あまり楽しくない選択をしなければならなくなります。

介護事業は、基本的に労働集約的な事業ですから、人件費が問題です。しかも、外部労働市場に依存していますから、労働市場がタイトになったときに、深刻な問題が起きます。時機を失せずに、介護報酬を引き上げなくてはなりません。そのためには保険料を引き上げるか、税金の投入を増やすほかありません。詳しくは、「介護労働者の立ち去り」を、お読みください。

そこでも書いたのですが、本来、「介護保険は、強制適用される社会保険です。保険料を徴収した以上、給付はしなければなりません。」したがって、必要な場合には、保険料を引き上げるか、税金の投入を増やしてくれるはずなのですが、「これには国民の反対が多く、政治家は踏み切れないのではないでしょうか。もしそうなら、当面は政治家によって自己負担引き上げの道が選ばれ、貧しい高齢者は必要なサービスを受けられなくなるというコースで進むことになる」恐れがあります。

「介護は家族にとっても大きな負担です。それを、他人に委ねる以上、現場でサービスを提供する労働者には相応の賃金を払わねばならず、そのためにはある程度の負担をしなければならないと、国民が思わない限り、この制度はうまくいかない」のですが、国民がそうは思ってくれず、制f度がうまく運営されない、これが、介護事業の最大のリスクです。

ここまで書くと、最後のご質問にも答えが出たようなものです。

 

(3)どのような仕組みで介護サービスを提供すれば多くの人が満足できるのか? 

もはや、家族だけで介護がやりとおせる時代ではありません。それに対応すべく作られた今の介護保険そのものは、よくできた制度だと思います。他の制度と同様に、改善の余地は多々あるとは思いますが。問題は運用面です。

「介護は家族にとっても大きな負担です。それを、他人に委ねる以上、現場でサービスを提供する労働者には相応の賃金を払わねばならず、そのためにはある程度の負担をしなければならない」、国民がそう考える、あるいはあきらめる、観念することが必要なのです。

そうなれば、「最終的には、事業者が儲かり、介護職の方も満足な報酬を得る形でないと、事業としての介護は存続でき」、「支払う側も満足するよう」になると思います。

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