労働供給の異時点間代替(intertemporal substitution)

効用関数の特定

t期の効用utは、消費(ct)と同時に余暇(1-lt)にも依存し、消費や余暇が増加すれば効用も増加するというのは、ごく一般的な効用関数です。この効用関数をさらに、次のように特定します。対数線形です。

ut=lnct+bln(1-l)t b>0   (1)

余暇が増えると、効用が増加するのでb>0です。

さて、異時点間の代替を考える前に、時点がひとつだけしかない静学的モデルを考えて見ます。

家計に関する仮定

家計は1期のみ存続する。 これが時点がひとつだけしかないことを意味します。

家計には初期資産はない。

家計の構成員はただ一人。

家計の予算制約

初期資産がないので、家計は労働によって得たその期に得た収入が消費できます。家計は1期しか存続しないので、貯蓄を行いません。すると労働によって得た収入すべてをその期に消費することになります。したがって、家計の予算制約は、次のようになります。

c=wl  (2)

wは時間当たりの賃金です。

家計の行動

(2)の制約の下で(1)を最大化します。

このときのラグランジュアンLは、こうなります。

L=lnc+bln(1-l)-λ(wl-c)   (3)

cに関する1階の微をとって0とおくと、こうなります。

1/c-λ=0         (4)

-b/(1-l)+λw=0   (5)

(4)に(2)を代入すると

1/wl-λ=0

したがって、 

1/wl=λ           (6)

(6)を(5)に代入すると、

-b/(1-l)+1/l=0   (7)

-bl+(1-l)=0 

(1+b)l=1

l=1/(1+b) (8)

となります。この式が意味するところは、二つあります。

1 労働時間lは賃金率wに影響を受けない。

2 余暇に対する評価が高いほど労働時間は短くなる。

さて、このような効用関数の場合、静学的モデルでは賃金率は労働時間に影響を与えません。では、効用関数が同じで、モデルを動学的なものに変えるとどうなるでしょうか?

一番単純な二期のモデルを考えて見ます。先ほどの家計に関する仮定をその部分だけ変えます。

家計に関する仮定

家計は2期のみ存続する。

家計には初期資産はない。

家計の構成員はただ一人。

第二期の賃金率と第1期から第2期にかけての利子率rに不確実性がないものとします。また、家計は利子を支払う限り自由に借り入れができるし、その利子率で貸し付けることもできるとします。

予算制約はこのように変わります。

c1+c2/(1+r)=w1l1+w2l2/(1+r) (9)

賃金所得の割引現在価値が消費の割引現在価値に等しいということです。

効用はρで割り引かれるものとします。

このときのラグランジュアンLは、こうなります。

L=lnc1+bln(1-l1)+[lnc2+bln(1-l2)]/(1+ρ)+λ[-c1-c2/(1+r)+w1l1+w2l2/(1+r)]  (10)

l1、l2に関する1階の微をとって0とおくと、こうなります。

-b/(1-l1)+λw1=0               (11)

-b/(1-l2)/(1+ρ)+λw2/(1+r)=0   (12)

(11)から

λ=b/(1-l1)/w1 (13)

(12)から

λw2/(1+r)=b/(1-l2)/(1+ρ)

さらに、

λ=b(1+r)/(1-l2)/(1+ρ)/w2 (14)

(13)(14)の左辺は等しいので、次の等式が成り立ちます。

b/(1-l1)/w1=b(1+r)/(1-l2)/(1+ρ)/w2

両辺をbで割り、(1-l2)とw1を掛けます。

(1-l2)/(1-l1)=(w1/w2)×(1+r)/(1+ρ)   (15)

(15)からは、3つのことがわかります。

1 賃金率は労働時間に影響を与える。具体的には、第1期の賃金率が第2期の賃金率より相対的に上昇すると、第1期の労働時間は第2期の労働時間 より相対的に長くなる。

2 効用の割引率が高くなると、第1期の労働時間が第2期の労働時間より相対的に長くなる。

3 利子率が低下すると、第1期の労働時間が第2期の労働時間より相対的に長くなる。

相対賃金率と割引率、利子率に対する労働供給のこのような変化は、労働供給の異時点間代替(intertemporal substitution)と呼ばれます。

人気blogランキングでは「社会科学」の23位でした。↓ここをクリック、お願いします。

人気blogランキング