「最低賃金 2007年その1」について

最低賃金 2007年その1」で最低賃金生活保護のバランスについて少し書きました。

その後、最低賃金の決定に当たって、生活保護とのバランスを考慮するという最低賃金法改正法案が国会に出されたのですが、成立せず、継続審議になりました。

これについては、hamachanさんが、>労働関連法案では、雇用保険法雇用対策法、パートタイム労働法の改正が行われたが、最低賃金法、労働基準法、労働契約法は審議不十分なまま継続審議となった。特に最低賃金法が与野党の党利党略のため継続審議となったことは、最低賃金の大幅引き上げを待ち望んでいる低所得勤労者の期待に応えられず甚だ残念である。来たる臨時国会での成立を強く期待する。

という連合の談話を引きつつ、「その党利党略で最賃法を見捨てた民主党のために、

>何としても与野党逆転を実現させ、政権交代に向けて前進を図れるよう、連合は組織の総力を挙げて取り組みを展開する。

んですかああ?」とチクチクいっています(http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2007/07/post_883e.html)。

まあ、せっかく継続審議になったのですから、この問題を少し考えてもいいでしょう。

その前に最低賃金というものを少し説明しておきたいと思います。議論を混乱させたくありませんので。

最低賃金は賃金ではありません。賃金というのは労働の対価として使用者から労働者に支払われるものです。現金で払われる場合もあるでしょうし、振り込まれる場合もありますが、受け取った労働者が望めば具体的な札、貨幣(コイン)の形をとりうるものです。この賃金が下回ってはならない基準が最低賃金です。最低賃金は使用者から労働者に支払われるものではなく、紙に書かれた抽象的な基準です。最低賃金と同じ額の賃金というのはありますし、最低賃金は賃金に影響を及ぼしますが、あくまで最低賃金は賃金ではなく、賃金を規制するための政策ツールです。

現在、日本の地域別の最低賃金は、時間あたりの賃金という形で定められています。どの都道府県で働いているかだけによって決まり、受け取る労働者の家族構成や年齢、どこに住んでいるか、どこで消費しているかなどには関係がありません。実に単純です。

このような最低賃金と比較すると生活保護制度はきわめて複雑です。地域の区分については細分化されていて、数が多いだけかもしれませんが、家族の数、年齢などによって細かく扶助額が決められているのですから。

このような複雑さは、世帯の生活を支えるという目的を達するためにどうしても必要なものでしょうし、また、行政が支払うというシステムによって可能になっていのでしょう。たぶん、制度を運営する行政側の負担はかなり重いと思われます。

さて、このような差がある最低賃金生活保護のバランスをとるというのは、意外に難しいのです。

直接問題となるのは最低賃金ではなく、実際に支払われる賃金です。生計費をまかなうために必要なのは実際に労働者に支払われる賃金であることはいうまでもありません。ボーダーライン層の就業行動に影響を与えるのも、働いた場合に受け取れると期待される賃金です。

最低賃金が問題になるのは、実際に支払われる賃金に影響を与える限りにおいてです。

家族の人数や住居の保有の有無によって金額が異なる生活保護に対応するものを、最低賃金だけで達成するのは無理です。もし働けば生活保護に匹敵するものを得られるようにしたいのであれば、次の四つのものを組み合わせる必要があります。

1 最低賃金(時間額)の設定と履行確保

2 労働市場の需給バランスを保つことにより雇用(労働時間)を保障

3 児童(家族)手当

4 住居手当

2についてはこういうことです。最低賃金は時間給で設定されていますから、労働時間を確保しなければ、一定の収入にはなりません。

3については、こう考えるとわかりやすいと思います。家族の人数に応じて最低賃金を設定するのは無理です。というのは、もし、家族の多い人には高い賃金を払わなければならないと決めれば、企業は家族のいない人、家族の少ない人を優先して雇おうとするでしょう。

4の住居についても同じです。持ち家の人が優先して雇われるというのでは困ります。

なお、もし、3の児童(家族)手当と4の住居手当を生活保護世帯にも適用するとすれば、生活保護の水準自体が下がりますから、1と2の組み合わせが必要でしょう。ただ、この場合、病気、体が弱い、家族の看護・介護でフルタイム働けない人のことを考慮する必要があります。

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