以前、「
民法第772条 改正案 その3」などを書いたのですが、
民法772条問題が、依然として議論されています。議論のされ方に、かなり違和感を感じています。
(参考)
民法第772条
1 妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する。
2 婚姻の成立の日から二百日を経過した後又は婚姻の解消若しくは取り消しの日から三百日以内に産まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定する。
例えば、こんな記事がありました。
毎日新聞世論調査:「離婚300日以内、前夫の子」規定、「見直し必要」7割
◇自民支持層でも
「離婚後300日以内に誕生した子は前夫の子」と推定する
民法772条の規定について、
毎日新聞が先月28、29の両日、電話で実施した全国
世論調査で、73%が見直しを「必要」と答えた。見直しが必要とした人のうち、「離婚前の妊娠でも、今の夫の子と認めるべきだ」は68%だった。
法務省は、離婚後の妊娠に限って「今の夫の子」と認める通達を出す方針だが、多くの人がそれでは不十分と考えている実態が浮かんだ。(2面に質問と回答、社会面に連載「こう考える」)
規定の見直しについて、「必要」としたのは、73%(男性69%、女性75%)で、「必要ない」が18%(男性22%、女性16%)だった。「必要」とした人の年代別では、40代(84%)が最も高く、30代(77%)、50代(73%)、60代(72%)、20代(58%)、70代以上(52%)の順だった。
法務省通達に加える改善措置として、現在与党では「離婚前の妊娠でも今の夫の子と認めるか」が焦点となっている。
民法の見直しが必要だと答えた73%のうち、68%が離婚前の妊娠でも今の夫の子と認めるべきだと答えた(男性63%、女性71%)が、「認めるべきでない」も24%(男性31%、女性19%)あった。
【工藤哲】
毎日新聞 2007年5月1日 東京朝刊
記事を見る限り、離婚し、再婚したケースのみが取り上げられています。
婚姻の解消の理由としては、離婚の他に死別があります。再婚する、できるとは限りません。また、妊娠時期だけが議論されていますが、出生の時期も考える必要があります。
この問題が、マスコミで大々的に取り上げられるようになって、かなり時間が経っているのですから、様々な事例を考えるように、記事にもっと広がりと深さがでてきてもいいと思うのですが、あまりそういう方向に向かっていないようです。
文句を言っていても仕方がないので、試しに、考えられるケースを網羅してみました。
いずれも、婚姻の成立の日から二百日を経過した後又は婚姻の解消若しくは取り消しの日から三百日以内に産まれた子についてのものです。ですから、現在の
民法では、婚姻の解消前の夫の法律上の子と推定される子についての表です。
○△□は、懐胎を示します。●▲■は出生を示します。○●は婚姻解消前の夫の血縁上の子、□■は再婚後の夫の血縁上の子、△▲はどちらでもない男性の血縁上の子の意味です。
夫の死後の人工授精受精(※で示しています)まで考えると、48通りありました。
婚姻解消の理由は他にもありますが、ここでは取り上げませんでした。
Ⅰ 夫と死別し、再婚しない、再婚を拒否された場合
解消の理由 | 婚姻中 | 再婚前 | 再婚後 |
---|
1 死別 | ○● | 再婚せず | 再婚せず |
2 死別 | △▲ | 再婚せず | 再婚せず |
3 死別 | ○ | ● | 再婚せず |
4 死別 | △ | ▲ | 再婚せず |
5 死別(※) | | ○● | 再婚せず |
6 死別 | | △▲ | 再婚せず |
1は、もっとも基本になるケースです。妻が結婚してから、夫の子を懐胎し、婚姻期間中に出産するという、あまりにも当然のケースです。「推定」を一切排除するとこのケースについても、真実性の証明か、夫、妻の同意を求めることになるのですが、制度として無理がありそうです。真実の証明を求めるのは、行き過ぎでしょう。また、夫(妻)が同意しなかったとき、母(父)や子が何らかの行動を起こさなければならないというのも変です。
この場合に推定を認めれば、ケース2についても推定が働くことになります。したがって、推定を破るための手続きが必要になります。その手続きをとり得るのは誰なのか、いつでも手続きをとれるのか、期間を限定するのかを定めなければなりません。特に注意しなければならないのは、夫が自分の子ではないかもしれないと疑いつつ、あるいは自分の子ではないと信じていながら、自分の子として育てようと決意している場合、自分の子と信じている場合、そして母にも夫の子かどうか分からない場合です。
ケース1について真実性の証明を求めると、ここがはっきりしてしまうことになります。
ケース3は推定の規定が最も有効、適切に機能するものです。
まず、1項がなく婚姻解消後は推定が働かないとすると、死亡した夫の血縁上の子であるし、婚姻中に懐胎したことが明らかなのに、何らかの手続きをとらないと、
民法の上では、夫の法律上の子と認められないことになります。このような場合1項は有効です。
次ぎに、婚姻中に懐胎したことが明らかでない場合、2項の規定がないと、婚姻中に懐胎したことを何らかの手続きで明らかにしないと、
民法の上では、夫の法律上の子と認められないことになります。300日以内の出産であれば、2項の規定で、特に手段を講じなくても済みます。
ただ、こうすると、ケース4とケース6にも推定が働くことになります。この場合、夫は死亡しているので、誰が否認の手続きをとるのかは大きな問題になります。
次回は、死別後再婚のケースを取り上げます。
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