民法第772条 改正案 その7 (その5の訂正)

民法第772条 改正案 その5 親子関係不存在」に、 誤りがありました。 謹んで訂正いたします。 「婚姻中又は離婚後300日以内に生まれた子供は,婚姻中の夫婦間にできた子(嫡出子)と推定され,仮に他の男性との間に生まれた子供であっても出生届を提出すると夫婦の子供として戸籍に入籍することになります。   夫との間の子供であることを否定するためには,原則として嫡出否認の手続きによることになります。   しかし,婚姻中又は離婚後300日以内に生まれた子供であっても,夫が長期の海外出張,受刑,別居等で子の母と性的交渉がなかった場合など,妻が夫の子供を妊娠する可能性がないことが客観的に明白である場合には,夫の子であるとの推定を受けないことになるので,そのような場合には,家庭裁判所に親子関係不存在確認の調停の申立てをすることができます。 (http://www.courts.go.jp/saiban/syurui/kazi/kazi_07_16.html)」 という裁判所の見解は、最高裁のこの判例に基づいているものと思われます。http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?action_id=dspDetail&hanreiSrchKbn=02&hanreiNo=27476&hanreiKbn=01 私はこれをこう解説しました。 「アンダーライン部分から分かるように、第3項の規定による推定が、理論的におかしな場合は、つまり離婚前の父親と母親に性関係があるはずがない場合に限り、第3項の推定が及ばないと扱われ、この場合には親子関係不存在の訴えが起こせるのです。」 これは多分正しいはずです。 しかし、これに続いてこう書いたのは間違いでした。 「逆に言えば、客観的に離婚前の夫の子ではないことが分かっていても、離婚前に夫と妻の間に性関係がありうる状況であったら、親子関係不存在の訴えは起せないのです。(あるいは起こしても認められないのです。)」 私の間違いは「そのような場合には,家庭裁判所に親子関係不存在確認の調停の申立てをすることができます。」を、この場合以外はできないと言う意味にとったことです。 実は、このような場合にはできるが、他にもできる場合があるのです。確かに「そのような場合だけは」とは、書いていないので、私の思い込みでした。 では、どういう場合にもできるのか? こういう東京高裁の判例http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?action_id=dspDetail&hanreiSrchKbn=03&hanreiNo=20219&hanreiKbn=02)があります。、 「第三 当裁判所の判断  一(略) <要旨>二 1(略) 2そこで、まず、妻が懐胎した当時において、夫が長期不在(その原因としては、服役、海外滞在、事実上の離婚による別居等が考えられる。)あるいは行方不明などにより同棲しておらず、夫の子を懐胎し得ないことが外観上からも明白であるという場合には、嫡出推定の基礎として想定された事態を欠くものであるから、推定を排除して差し支えないと容易に言い得るであろう。(後略) 3 しかしながら、嫡出推定が排除される場合をこれに限定する必要はない。(中略)客観的に親子関係が存しないことが明白な事案においては、民法上の実親子関係を強制することは相当でないと考えられる。その例として、妻が懐胎した子と夫とが人種を異にするとき、人類学的に不一致であるとき、血液型が背馳するときなど、客観的かつ明白に親子関係を否定し得る場合が挙げられるであろう。夫に生殖能力がないことが明らかなのに妻が懐胎したときも同様である。(中略)  なお、被控訴人が指摘するように、最高裁判例(平家注 これは上に引用した判例のことです。)は、離婚に先立つ長期間の別居により外観上夫の子を懐胎できないことが明らかな事案に関するものであるが、その射程距離については、いわゆる外観説によって親子関係を否定し得る場合に限定されているものとのみ理解しなければならないものではない。  右判例の趣旨は、先に述べた諸点に照らせば、科学的証拠により客観的にかつ明白に証明し得る場合にも当てはまるからである。」 では、「客観的に親子関係が存しないことが明白な事案」なら、それだけで訴えを起こせるかというとそうではありません。この判例は、次のように述べています。 「4 ところで、嫡出推定が排除される場合には、原則として訴えの利益が認められる限り、誰でも、また、いつでも親子関係不存在確認の訴えを提起し得ることになるし、(中略)しかし、このような事態が無制限に現出することは、嫡出推定規定及びこれに関連して嫡出否認の訴えが設けられた趣旨が第一義的に家庭の平穏を守るという点にあることを無視するものであり、民法の容認するところではないといわなければならない。  そこで、嫡出推定が排除され、親子関係不存在確認の訴えを提起し、(中略)得るのは、懐胎した母とその夫の家庭が破綻し、もはや保護すべき家庭が存しないことが必要であると解すべきである。」 つまり、嫡出の推定が排除されるのは、今のところ次の二つの場合であるようです。 1 妻が懐胎した当時において、夫が長期不在(その原因としては、服役、海外滞在、事実上の離婚による別居等が考えられる。)あるいは行方不明などにより同棲しておらず、夫の子を懐胎し得ないことが外観上からも明白であるという場合 2 客観的に親子関係が存しないことが明白であり、かつ、懐胎した母とその夫の家庭が破綻し、もはや保護すべき家庭が存しない場合 したがって、DNA鑑定により客観的に親子関係が存しないことが明白であるだけでは、推定は排除されないということになります。 人気blogランキングでは「社会科学」の19位でした。今日も↓クリックをお願いします。 人気blogランキング