介護危機

日経新聞の中村編集員が、「首都圏を直撃する『介護危機』」(http://www.nikkei.co.jp/neteye5/asakawa/index.html)で首都圏の介護労働者の賃金を引き上げるべきだと主張されています。

高齢者の中でも、介護サービスの必要度が高くなる高齢単独世帯の2015年までの伸び率を見ていくと、同様に埼玉(75%)、千葉(65%)、神奈川(55%)の3県の伸び率がベスト3で、全国平均の36%を大幅に上回る。それにより、同年の高齢単独世帯は、東京都の60万世帯をトップに、大阪、神奈川、愛知、埼玉、千葉と続く。」

「 高齢者の大都市への集中が急激に進む。これまでの高齢者問題は、過疎地を含む地方の課題であった。それが完全に逆転して首都圏と大阪、愛知の都会型に変わっていく。かつて若者が地方から首都圏に集まり、そのまま年を取れば、当然ながら首都圏での高齢化は進み、地方での高齢化は頭打ちとなるわけだ。」

「首都圏では、高齢者が増えていくのに施設整備は全国で最低である。(中略)その大きな理由は、首都圏の高い地価と介護保険制度の報酬体系にありそうだ。介護報酬は、スタッフの人件費や運営費にまわされるもので原則として全国一律である。それでも都会地には加算するなど、5段階の地域格差を導入している。それでも、最も高い東京23区は在宅サービスで7.2%増、施設サービスは4.8%増でしかない。」

「 『過疎地との人件費の差はもっと大きい』『都心部では介護報酬が低すぎる。あまりにも現実離れしている』という訴えは事業者たちからよく聞かれる。生活実感からみても23区の人件費が、東北や山陰、四国地方よりわずか7.2%増というのは納得しがたいだろう。 」

確かに、その通りです。首都圏の皆さんは、危機意識が薄いのですが、もうすぐ大きな問題になります。しかし、次の主張には賛成しかねます。

「施設整備が遅れている理由に、高い地価という首都圏ならではの事情も大きい。同額の建設助成補助金を投入しても、首都圏では確保できる土地は狭い。こちらは、絶対額の問題だが、介護報酬は総額を変えずに配分を変えることができる。できることから手を打つべきだろう。」

過疎地の介護報酬を削減して、首都圏に回せということです。しかし、首都圏以外でも介護労働者は不足がちなのです。それに首都圏で増やすためには首都圏以外で相当減らさなければなりません。

「賃金水準を上げれば、スタッフの採用や継続雇用にも大きく作用する。働き手に将来への希望を持ち続けてもらうためにも、他産業と同等の給与が必要だろう。」

「他産業と同等の給与が必要」なのは、首都圏に限りません。

以前、「景気回復と労務管理 その2」で、こんなことを書きました。

介護保険は、介護が家族で担われていたため、誰でもできる低技能の仕事と考えられていたこと、そして制度が発足したときに労働市場が緩和していて、比較的低い賃金で労働者を確保できたので、つい非正規労働者に頼ることを前提してしまいました。保険料は低賃金を前提の率に決められてしまったような気がします。

このような条件の下で賃金が上がると大変です。人手を確保するためには賃金を上げなければなりませんが、「介護職員 その5」で書いたように、賃金を上げることはできません。保険料の水準を適正な高さにしなければならないのですが、なかなか難しそうです。」

首都圏で大幅に施設と職員を増やす必要があるなら、介護保険料を増やすか、国費の投入を増やす以外の道はなさそうです。首都圏の高齢者、高齢者候補、その家族の皆さん、如何思われますか?

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