民法第772条 改正案 その6

民法第772条 改正案 その5 親子関係不存在」で書いたように「推定が及ばない子」に就いてだけ、親子関係不存在の訴えを認めた論理は多分こういうことではないかと、想像します。

Ⅰ 元々、民法の規定というのは、離婚を前提にすると、こういうことなのですね。

国は、男性に向かってこう言っているのです。

1 おまえの女房が離婚前に妊娠して、その子が産まれたら、それはおまえの子だとするよ。だから、養って、育てて、遺産もやりなさい。ひょっとして、お前の子ではないかもしれないけれど、父親がいないと、子が困るんだ。かわいそうだろ。だから、よろしくね。(第772条第1項)

2 おまえの元女房が、離婚してから300日以内に産んだ子は、離婚前に妊娠した子だとするよ。するとおまえの子だと言うことになる。だから、やっぱり養って、育てて、遺産もやりなさい。ひょっとして、お前が離婚した後に妊娠した子かもしれないけど、その場合おまえに覚えがなければ多分おまえの子ではないけれど、やっぱり父親がいないと、子が困るんだ。よろしくね。(同第2項)

3 でも、おまえがどうしても不服なら、産まれた子がおまえの子ではないという確実な証拠をもって裁判所に来なさい。そしたら、裁判でおまえの子ではないことを認めてあげるよ。裁判以外の手段は認めないよ。おまえ以外の人間は訴えられないからね。自分で裁判起こさなきゃだめだよ。(第774条、第775条)

4 ついでだが、裁判は公開だからね。世間に知られるのは覚悟しといてね。(憲法第82条第1項)

5 ただし、一旦自分の子だと認めたら、事実がどうであれ、後はもう文句は聞かないよ。(第776条)

6 どうしても訴えるなら、おまえがその子が生まれたことを知ってから、1年以内に訴えなきゃだめだよ。それを過ぎたら、後になっておまえがなんと言ってもおまえの子だということにするからね。(第777条)

Ⅱ 男の反論

そんなこと言われたって、離婚して300日以内に産まれた子は、私の子にしてしまうなんて非道じゃありませんか。そういうことにするのは、結婚している夫婦が普通同居して、子供ができるからでしょ。私は離婚前も、離婚後も刑務所に入っていて、同居していなかったんですから、その子が私の子でないことは確実です。こんな場合まで、裁判しなきゃだめだなんて無茶です。

Ⅲ 国(裁判所)の回答

うーむ、もっともではある。しかし、民法を遡って変えるわけにはいかんからな。よし、300日以内の規定は、夫が絶対に父親ではあり得ない状況にあったことが客観的に明らかな場合には、必ず適用されるわけではないことにして、調停で変えられることにしてやろう。ただし、産まれた子の立場もあるし、場合によってはおまえの子ということにするぞ。

(参考)

第774条 第772条の場合において、夫は、子が嫡出であることを否認することができる。《改正》平16法147

(嫡出否認の訴え)第775条 前条の規定による否認権は、子又は親権を行う母に対する嫡出否認の訴えによって行う。親権を行う母がないときは、家庭裁判所は、特別代理人を選任しなければならない。《改正》平16法147

(嫡出の承認)第776条 夫は、子の出生後において、その嫡出であることを承認したときは、その否認権を失う。《改正》平16法147

(嫡出否認の訴えの出訴期間)第777条 嫡出否認の訴えは、夫が子の出生を知った時から1年以内に提起しなければならない。

人気blogランキングでは「社会科学」の18位でした。今日も↓クリックをお願いします。

人気blogランキング