政策目標としての潜在成長率の政治的利点

経済の専門家であるecon-economeさんが、潜在成長率の引き上げを政策目標とすることについて議論を展開されています。(http://d.hatena.ne.jp/econ-econome/20061029

まことに、妥当なご議論だと思うのですが、惜しむらくは、政治的側面への考察が欠けています。政治家の行動なのですから、政治的側面の考察は不可欠です。

仮想問答を作ってみました。

就任直後の問答

記者 総理は潜在成長率を引き上げることを目標にされています。潜在成長率が上がれば、成長率も上がるとは言えないようで、総理は経済がよく分かっていないのではないかいわれていますが、ご感想は?

阿部総理 私は別に経済のことがよく分かっているとうぬぼれてはいません。しかし、最高責任者として、達成すべき目標が何か、国をどこへ引っ張っていけば良いのかは分かっています。潜在成長率を引き上げ、経済成長につなげるという「経済成長を念頭においた経済政策という発想自体は至極真っ当」という評価を専門家からいただいています。

正しい政策目標を定めることこそ私の役割です。後は、しかるべき専門家を集めて、実行策を検討してもらいます。

もちろん経済成長率が上がれば、財政再建が容易になります。

詳しいことは○○先生に聞いてください。私、専門家じゃありませんから。

1年後の問答

記者 潜在成長率の引き上げはうまく進んでいないという意見があるようですが?

阿部総理 私は専門家の皆さんの助言にしたがって、各種施策を実施して参りました。効果はこれから出て着始めていると考えていますし、これからさらに効果が出てくると信じています。

ある専門家のご発言によると、「実際の数値として得られる『潜在成長率』には、その水準に一定の誤差が(ママ)はらむあいまいな値」であり「ある種の推計により得られる数値であり、推計期間や『潜在成長率』の考え方に依存して変動する性格を有している」そうです。

それに潜在成長率が上がったかどうか推計するには何年分かのデータが必要だそうです。まだ、1年しかたっていないじゃないですか。

ですから、私が「各種施策を施した」にも関わらず、これが上がらなかった、これからも上がらないとは言い切れないでしょう。上がっていない、上がらないという証拠があるんですか?

2年後の問答

記者 成長率が上がってきませんが、政策が間違っているのではありませんか?

阿部総理 私は正しい政策目標を決め、専門家の助言にしたがって施策を展開して参りました。仮にうまくいっていないとしたら責任は、経済の素人である私ではなく専門家にあります。しかし、政策は近く効果を発揮し、成長率も上がってくると思っています。

記者 総理には、専門家を選んだ責任があるのではないですか?

阿部総理 私は、東大の経済の先生や財界の有力者など誰が見ても専門家としてふさわしい方を選びました。問題はありません。もし、経済学の標準的な理論が間違っているというなら、経済学者に責任を取ってもらいましょう。

記者 それはトカゲの尻尾きりではありませんか?

阿倍総理 専門家が専門分野で失敗したら、責任取るのは当たり前でしょう。私は、よりよい専門家を任命することで、前向きに責任をとりたいと思います。

10年後の問答(もちろん総理は退任しています。)その1 うまくいっていないとき

記者 結局、成長率が上がらなかったですね。

阿部元総理 残念だね。私は正しい政策目標を決め、専門家の助言にしたがって正しい施策を実施したよ。うまくいったんだよ。私の在任中は。でも、後任の○○君くんがねぇ。成長率を引き上げようと思ったら、政策に持続性が必要なんだがねぇ。困ったものだよ。

10年後の問答 その2 うまくいっていたとき

記者 ようやく、成長率が上がりましたね。

阿部元総理 うん、長い道のりだったよ。潜在成長率を上げるというのはなかなか難しくてね。正しい政策をとっても、効果が出るには時間がかかるんだよ。在任中は、いろいろ言われたがね。これで私が正しかったことが分かっただろう。

人気blogランキングでは「社会科学」の21位でした。今日も↓クリックをお願いします。

人気blogランキング