介護労働者の立ち去り

介護保険は、強制適用される社会保険です。保険料を徴収した以上、給付はしなければなりません。 ホームヘルパーの不足が深刻化しているそうですが、おそらく同時に介護施設の非正規職員も不足し始めているはずです。労働市場の構造から言えば、それほど雇用保障がなく、勤続に伴う昇級もない、時間比例の給与のシステムで成り立っているという点では共通ですから。 このような市場は流動性が高く、労働市場がタイトになれば市場賃金は簡単に上昇します。(逆に緩めば下がります)その時、賃金を引き上げなければ、労働者が立ち去っていくのは当たり前です。公務員のように労働者が安定した雇用、勤続に伴う賃金の上昇を期待できるケースとは違います。 「即戦力が足りないってさ」のコメント欄で指摘されているように、この問題は介護業者の企業努力で解決できるようなものではありません。 したがって、国が給付の約束を守るためには、保険料を引き上げるか、保険料の賦課ベースを広げるか、国庫負担を増やすか、自己負担を増やすしかありません。(もう一つ低賃金の外国人労働者を入れるという手がありますが、そのような労働者は、入国してしばらく経てば、賃金の高い別な産業に移動してしまうでしょう。)このメカニズムは、「介護職員 その5」、「介護職員 その6」で、説明しました。 自己負担の引き上げは、利用の手控えを生み出します。その意味では需要超過を解消するのに有効です。しかし、それは貧しい高齢者が介護サービスを受けられないという事態も引き起こします。自己負担の引き上げには限度があれば、結局は、保険料率を引き上げるか、保険料の賦課ベースを広げるか、国庫負担を増やさざるを得ません。 しかし、これには国民の反対が多く、政治家は踏み切れないのではないでしょうか。もしそうなら、当面は政治家によって自己負担引き上げの道が選ばれ、貧しい高齢者は必要なサービスを受けられなくなるというコースで進むことになるでしょう。家族介護に若干の現金給付を行うことになるかもしれません。 介護は家族にとっても大きな負担です。それを、他人に委ねる以上、現場でサービスを提供する労働者には相応の賃金を払わねばならず、そのためにはある程度の負担をしなければならないと、国民が思わない限り、この制度はうまくいかないでしょう。 介護制度ががたがたになり、家族による介護も持たないといった状況にならない限り、国民がそういう風に思う日は、かなり先ではないかと思います。 人気blogランキングでは「社会科学」の30位でした。今日も↓クリックをお願いします。 人気blogランキング