2006年福祉宇宙の旅 その3

2006年福祉宇宙の旅 その2」で説明した、最低生活保障とメイク ワーク ペイを不完全ながら両立させようとした仕組みを作った場合のもう一つの大きな問題は、勤労所得ゼロの世帯の扱いです。

勤労所得ゼロと言う世帯には幾つかの類型があります。

一つは、普通に考えれば、そもそも働ける人が一人もいない場合です。高齢者、病人などの単身世帯が典型的でしょう。家族に看護や介護しなければならない人がいて、働きようがない場合もあります。労働不能世帯と表現できます。

もう一つは、働けるけれども働きたくないという場合です。この仕組みの下では、働けばある程度、世帯所得が増えるのですが、働くことの負担、苦痛(経済学的な表現を使えば、労働の不効用)が大きくて、その程度の所得の増加では働く気になれない場合です。勤労意欲の足りない世帯と呼べます。

三番目は、働くことができ、働く気もあって、仕事を探しているけれども、仕事が見つからない場合です。求職中の世帯と言うのが適切でしょう。

所得ゼロの世帯が、この三つのうちのどれに属するのかを明確に区別できるなら、対処方法が考えられない訳ではありません。

労働不能世帯には、最低限度の生活が送れる程度の給付を行えば良く、勤労意欲の足りない世帯には、一方で、勤労所得ゼロの場合の給付を減らし、他方、勤労所得が増えたときの給付の減額割合を小さめにすればよいのです。

また、求職中の世帯には、別に求職活動をした場合の追加的な給付を行えばいいのです。ただし、この場合働き出すと収入が減り、メイク ワーク ペイにならなくなる疑いが濃厚です。

まあ、これはそれほど大きな問題ではありません。

2006年福祉宇宙の旅 その1」で少し書き掛けましたが、このように類型別に制度を作るとより根本的な問題が発生します。

それはこれらの世帯の区別をどうやってつけるかということです。労働不能と判定されれば、手厚い給付を受けることが可能であれば、そのように判定されようとする強い誘引が働きます。また、追加的な給付を受けようとして、求職活動をした振りをすることも考えられます。これを阻止するためには、複雑な検証システムを作り、膨大な労力と資金を投じなければならないでしょう。あまりにも行政コストが大きすぎるかもしれません。

なお、このような偽装を阻止するのは、担当者にとって相当な心理的負担でしょう。弱い人を守るために働くなら志気も維持できますが、ずるをしそうな人間を監視するのに専心するのでは、精神的に疲れてしまいます。

(続く)

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