リフレ政策の検討 その9

リフレ政策の検討 その8」にrascalさんから幾つかコメントを頂きましたので、お返事を。前回のものに考え方、表現ともに熟していない部分があったので、その説明を兼ねます。

1合理的期待形成

「合理的期待形成が行われているかどうか解らない」場合には「『経済政策』的には、合理的期待形成を基礎におく理論モデルに基づく議論には意味がない」と主張するつもりはありません。

今、経済学者から、そのようなモデルに基づく政策的な主張、提言Xが出されたとします。これを採用するかどうか決めるときに、それがあくまで合理的期待形成が現実に行われていると仮定した場合の主張、提言であり、もし、そのような期待形成が行われていないときには、予想された結果がもたらされないリスクがあると言うことを意識しておくべきでしょう。

また、現実には他の期待形成、例えば適応的期待形成がなされていたとしたら、提言Xを受け入れた場合何が起こるかも考えておくべきではないかと思います。

リフレ政策の検討 その7」の例でいえば、「日銀の国債買い入れが直ちに物価上昇予想を生み出す(これをコースAとします。)」と言う理論的前提のもとで国債買い入れるべきだとの提言が行われたとします。(インフレ目標導入と同時でもかまいません。)

この提言を採用するかどうか決めるときに、合理的期待形成が行われていなければこの前提が成立しないことを意識しておくべきです。

この場合、適応的な期待形成が行われているとしたら、一番迂遠な回路を取れば、国債買い入れ金利低下→総需要増加→物価上昇→物価上昇期待の形成というコース(これをコースBとします。)をたどるでしょう。(勿論、例えば、総需要増加の時点で物価上昇期待が形成される可能性もあります。)

コースAに比べるとコースBの方が物価上昇期待が形成されるのに時間がかかります。また、コースBの途中の時点で、何らかの要因で需要増加を打ち消すような事態が発生すれば物価上昇期待は形成されません。

国債買い入れを決断するときには、このような二つのコースがありうることを意識して置くべきですし、また、予想に反してコースBに入った場合にどうするかをあらかじめ考えておくべきです。さらに、実行した後は、経済が実際にはどちらのコースをたどっているのかを把握すべきでしょう。

政策決定というのは一回きりものではありません。状況を見ながら修正することも可能です。あまり一つの仮定に寄りかからず、柔軟性を持って考えるべきだと思います。

2 貨幣

 貨幣的な現象を、貨幣を含まないモデルでも論じえるのかも知れませんが、やはり、明示的に貨幣を含んだモデルの方がいいのではないでしょうか?素朴すぎるかもしれませんが。

3 経済の現状

 現在の物価の上昇の主因は、輸入インフレの色彩が強く、デマンドプル要因はそれほど強くないこと、失業率も自然失業率になっていないことは、概ね同感です。投資は堅調なようですが、消費は高額商品は別として、全体を見ればそれほど伸びているようには見えません。(かといってデフレギャップが100兆円以上もあるとは思いませんが。)政府の支出が増えず、貿易黒字も減りつつある状況の下で、先行きは予断を許さないと思います。

 なお、誤解を生んだのかもしれませんが、リフレ派の皆さんを「モデル・フェチ」だと思ったことはありません。実は、rascalさんのコメントで初めて「モデル・フェチ」という言葉があるのを知りました。これは「声の出るゴキブリ」と同じようなニュアンスの表現なのでしょうか?

 

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