市場化テスト その7

市場化テスト その6」の続きです。

国家公務員の行動を規制し、国家の望む行動をとらせるシステムを整理してみると、こんな風になっています。一般的なものから特殊なものの順に並べてみました。

1 一般の労働者にも適用される禁止・・・違反には刑罰

 業務上横領罪など

 国家公務員の争議行為の遂行の共謀、そそのかし、あおり

 国家公務員が秘密を漏らすことを企て、命じ、故意に容認し、そそのかし、幇助すること

 

2 公務員という身分を持つものに対する禁止・・・・・・違反には刑罰

 収賄罪(刑法第197条)など

 ここまでは、市場化テスト法によって公務を行う労働者にも適用されます。その意味では国家公務員との差がありません。制度上はです。

 ここで問題が発生しえるのは、受託会社の職員が「自分が公務員であること」を知らない場合です。この場合、この労働者には「罪を犯す意志がない」ので、罰されません。例えば、上司の命令で何か作業をして、それが公務であることを知らず、公務に従事しているという意識がなければ、当然、「自分が公務員である」とは知らないわけで、この労働者がその仕事に絡んでお金を受け取り便宜を図っても、罰されることはありません。

このような事態を避けるためには、従事させる労働者に、公務員であることを認識させることといった規定をしておく必要があるでしょう。それでも、受託企業がこれを怠れば、意味がありませんが。

 さて、以下は国家公務員には適用されますが、受託会社の労働者には適用されません。

3 国家公務員という身分を持つものに対する禁止・・・・違反には刑罰

  秘密を漏らすこと

 政治的行為を行うこと(公選による公職の候補者になること、政党その他の政治的団体の役員、政治的顧問、その他これと同様な役割を持つ構成員になることを除く)

 営利企業の地位につくこと(退職後の特別の場合を含む)

 

4 国家公務員という身分を持つものに対する禁止・・・・違反には懲戒(免職、停職、減給、戒告)

 国家公務員違反

 争議行為の参加

 秘密を漏らすこと

 信用失墜行為

 政治的行為(公選による公職の候補者になること、政党その他の政治的団体の役員、政治的顧問、その他これと同様な役割を持つ構成員になることも服務)

 営利企業の地位につくこと

 職務上の義務違反

 国民全体の奉仕者たるにふさわしくない非行

5 国家公務員にあることをすることを義務付ける・・・・怠れば懲戒

 服務の宣誓

 法令及び上司の命令に従うこと

 秘密を守ること

 職務に専念すること

   

6 なお、国家公務員にある水準以上の勤務実績をあげることをすることが求められており、勤務実績がよくない場合には怠れば分限処分(降任、免職)をうけます。

 

現在、国は国家公務員を直接雇用し、ここで書いたようなシステムを背景にして、直接命令して適切なサービスを行わせ、悪いことをさせないようにしているのです。

 市場化テストを行い、委託方式に切り替えると言うことは、あらっぽく言えば、国は委託先企業と契約を結ぶだけです。上でかいた、3,4,5,6のような方法は採れませんから、この契約だけに頼って、その企業の労働者が適切なサービスを提供し、悪いことをしないようにコントロールしなければなりません。

 このような成果を上げるためには、相当巧妙な契約を結ぶ必要があるような気がします。そのような契約の結び方について、十分な検討が必要でしょう。

 なお、もしそれがそれほど難しくないということであれば、果たして、国家公務員にだけ3のような刑罰を科すシステムが必要なのかという疑問が湧きます。

 さらに、公務に従事する者が政治活動や営利活動に参加しても、別に構わないということであれば(そういう国もあります)、4のような規制も不必要だということになります。

 市場化テストは、単にコストを削減するというだけの問題ではなく、契約を結ぶ技術(インセンティブスキームを設計する技術)の問題でもあります。また、公務に従事する人間にどのような規制を加えるべきなのかという、根本的な問題を提起しているように思えます。

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